第39章 力の重さ
「__疾風!」
水琴の声に応えるように風が生まれ鋭い刃となってハルタを拘束する蔓を蹂躙する。
切り刻まれた蔓は力を失いバラバラと地に落ちていった。
「ナイス水琴!」
拘束から抜け出したハルタは剣を抜き本体に叩きつける。
まるで動物のような叫び声をあげ、それは息絶えた。
「ハルタ!大丈夫?」
もう動かなくなったのを確認してから水琴はハルタへと駆け寄る。
ハルタは体液に濡れた剣を清め収めると肩を竦めて見せた。
「へーきへーき。まさか二体も出るなんてねぇ。今日は大盤振る舞いらしいね」
「もー。またそんなこと言って」
元気な様子にほっと息を吐く。しかし服が赤く塗れているのに気付き顔を強張らせた。
「ハルタ、それ……」
「え?あーこれ?大丈夫だよちょっと掠っただけだから」
「ちょっとって、そんな量じゃないよ!」
蔓だけを攻撃したつもりだったが、初めての実践で手元が狂ったのか。
ハルタの腕は出血で赤く染まっていた。
話している間にもじわじわとその赤は拡がりつつあり水琴はぞっとする。
「待って、今私の血で…っ」
「ちょいと待った」
治療のため指先を切ろうとナイフを取り出した手を、背後から伸びた手がやんわりと包んだ。
白檀の香りと共に絹糸のような髪が水琴の肌を撫でる。
「良い女が自分を安売りするもんじゃあねェなァ」
「っイゾウ……」
「ハルタ、これ巻いとけ」
投げて渡したのは純白のサラシ。
危なげなくキャッチするとハルタは慣れた手つきで患部に巻き付けていった。
白に覆われ赤が見えなくなったことで水琴もようやく安心する。
「痛くない……?」
「へーきだって。水琴は心配症だなぁ」
マルコの扱きの方が痛いよ、と笑う様子に無理は見えない。
それでも自分の風が家族を傷つけてしまったというショックは簡単には消えない。
「とりあえず船に戻るか。ちゃんとした治療はその後だ」
「うん……」
イゾウに促され、三人はようやくモビーへと戻った。