第29章 帰ってきた日常
「疲れたぁ……」
庭の隅、まだ元気にはしゃぎまわる子どもたちを見守りながら水琴は地面に座り込む。
「ほんと子どもの体力って底知らず…」
あの時もそうだったよなぁ、と思いふと疑問を覚える。
「…あの時ってなんだっけ」
既視感はあるのに、あと少しが引っかかって出てこない。
もやもやした気持ちを吐き出し、水琴は完全に地面に寝転んだ。
太陽の光がまぶしい。
「……忘れてるなぁ」
この一月で、あちらの世界の出来事は瞬く間に薄れていった。
忘れないようにとノートにしたためた内容も、あとで見返すとそうだったっけと思うようなことばかりで現実味がなく、まるで物語を読むような感覚だった。
まるで、夢物語のような。
鼻の奥がツンと痛む。夢物語なんて、そんなことはないと知っている。
彼らは確かに、今もどこかで生きているのに。
「…後でもう一回読もう」
ぐすん、と鼻をすすり水琴は立ち上がる。
目の前に転がってきたボールを持ち上げ、思いっきり輪の中に向かって投げた。
「はい、パース!」
あの時は誰が受け取ってくれたっけ、と頭の隅で考えながら。
水琴は“日常”へと戻る。