第23章 懐かしき故郷の影
目の前にはいつも通り、栄養バランスも見た目も整った素敵な朝食が並ぶ。
絶妙な味加減のオムレツ。
新鮮なフルーツのジュースにサラダ。
カリカリに焼けたベーコンに、ふかふかのパン。
モビーディックのご飯は、文句なしにおいしい。
この世界にミシュランガイドブックがあるなら、絶対に三星に入る味だと思う。
しかし…と綺麗に平らげた皿を前に水琴は呟く。
「やっぱり、物足りない……」
この世界に来て数ヶ月。
毎日毎日様々な料理を提供してくれるモビーの食堂だが、今まで一度も和食が出てきたことはない。
美味しい料理に不満はない水琴だが、そろそろ故郷の味が恋しくなってきた。
「ふっくらご飯…あさりの味噌汁が飲みたい……」
典型的な和の朝食を思い描き、水琴はぶつぶつと呟く。
「食べ終えた先からもうご飯のこと考えてるわけ?」
唐突に聞こえた声に水琴は振り返る。
「サッチ、おはよー」
「おはようさん。最近よく食うようになったなァ。足りなかったのか?」
どうやら先程の水琴の呟きを量だと捉えたようだ。
たしかにこの船に乗るようになってからずいぶん食べる量が増えた気がするが、水琴が言いたいのはそうじゃない。
「そうじゃなくてね。サッチ、この船って和食ってないの?」
「ワショク?」
水琴の言葉にサッチは首を傾げる。