第22章 小さな家族
「つまり、犯人はこいつだったと」
がつがつと用意された餌を食べる犬を見下ろし、サッチは溜息をつく。
「一体いつから乗ってたんだ?」
「前上陸した島からか?」
そうすると二週間近く潜り込んでいたことになる。
人間ですらつらいこの海に耐え、今まで過ごしていたその小さな身体をエースは感心したように見つめた。
「小せェのにすげェなお前…」
がぶり。
差し出した手は容赦なく子犬の口に収まる。
「いってぇぇえええ!!」
「エース駄目だよ。ご飯中に手、出しちゃ」
「なんで噛めんだよこいつ?!」
おれロギアだぞ?!とエースは涙目で睨む。
「だが、一体どうやって鍵を開けてたんだ?」
ビスタが髭を撫でながら首を傾げた。
「あぁ、それはね…」
水琴が説明しようと口を開くと、子犬は餌を食べ終えとてとてと歩いていく。
そしてドアノブに飛びつくと、その特徴的な口髭をカギ穴に差し込んだ。
ぐりぐりと少し捻っていると、カチャリと音がして扉がキィと開く。
「___あんな感じ」
「器用にもほどがあるだろ…」
「資料室もこの子みたい。たぶんベッド代わりにしてたんじゃないかな」
「で、どうすんのマルコ」
「どうするって……」
ハルタの言葉にマルコは苦々しく子犬を見る。
「海ん中に放りだすわけにもいかねェだろい。次の島で適当に下ろせばいいだろ」
「えぇ!下ろしちゃうの?!」
マルコの言葉に非難の声を上げたのは水琴。
ぎゅーっと子犬を抱きしめ、水琴はマルコを睨む。
「こんな可愛いのに!」
「理由になってねェよ。お前分かってんのか?ここは海賊船だぞ」
「動物飼ってる海賊船があってもいいじゃん!」
「あのなァ……」
「私、親父さんにお願いしてみる!!」
こうなった水琴の行動力はすごい。何か言い掛けたマルコを遮り、水琴は子犬を抱きかかえたまま船長室へと向かった。
「…ありゃあ親父OK出すな」
「末娘の初めての我儘だ。却下するわけねェだろい」
予想される未来にマルコははァ…と溜息をつく。
その後、正式な家族となった子犬、ステファンはクルーのアイドルとして可愛がられることとなる。