第106章 穏やかな日常と不穏な陰
「そろそろ飯にすっか」
「そうだね。ちょっとお腹空いてきちゃった」
手を繋ぎ兄妹のように歩くフランとリリィの後ろを歩きながら、エースの言葉を皮切りに腹の虫が主張をし始めた。
「もう少し歩くとレストラン街があるんです。そちらで昼食にしましょうか」
振り返るフランの言葉に口々に賛成の言葉が上がる。
「エース何食べたい?」
「まずは肉だろ」
「たまには酒も飲みたいねェ」
「米があるとこがいいな、俺は」
「お前ら好き勝手言ってるが予算も考えろ。特にエース、お前は上限を考えず注文するが少しは懐具合を考えて__」
デュースの小言を横道から飛び出してきたナニカがぶつかり遮る。余程の勢いだったのか、呻き声を上げ腹部を抑えるデュースの横に少年が転がった。
「痛ってぇ!」
「大丈夫?」
怪我をしてしまっただろうかと慌ててしゃがみ手を差し伸べる。騒ぎに少し先を歩いていたリリィが小走りで戻り、その後ろをフランもまたついて歩いていた。
「どうしたの?」
「リュート__?」
倒れ込む少年を見てフランの表情が変わる。フランに気づき、少年もまた息を呑んだ。
勢いよく立ち上がったかと思えばフランが声をかけるよりも早くリリィを突き飛ばす。
「危ない!」
尻もちをつきそうになるリリィを慌てて支えれば、その一瞬の隙に少年はデュースの脇をすり抜け出てきたものとは違う脇道へ入り込み走り去ってしまった。
「なんだったの……?」
「リリィさん、怪我はありませんか?」
「大丈夫。ありがとうフラン」
「あいつ知り合いなのか?」
怪我の無い様子に安心するフランの横でキールが少年の消えていった方を見つめながら問う。
「えぇ、あの子は__」
フランが開きかけた口を閉じる。同時に路地の向こうで慌ただしい足音と複数の気配が近づいてきた。不穏な様子に全員息を潜め様子を伺う。
「いたか」
「いや、見当たらない」
「向こうを探せ。不穏分子は例え子どもでも放っては置けない」
やがて気配が遠ざかり、水琴は知らず入れていた力を抜く。