第106章 穏やかな日常と不穏な陰
「__皆さんは、母がどこにいるかご存知なのですか」
突然のフランの問いに問われたリリィはもちろん、その場の全員が驚き困惑した。
リリィの故郷である、歌詠みの島を知るであろうフランの母親。
どうにか今日中に彼女に会い、島の手がかりを掴めたらと思っていたのだが、今の言葉からしてそう簡単にはいかないらしい。
「残念だが、俺たちは知らない。むしろ彼女に故郷の島の場所について話を聞きたいと思ってたんだ」
「島の場所を?」
「あぁ。詳しくはここでは話せねぇが、恐らくリリィはフランの母親と同郷なんだ」
「リリィを送り届けるためにその場所を知る彼女に話を聞きたいと思っていたんだが、その様子だとそちらにも込み入った事情がありそうだな」
「そうでしたか……」
デュースとダグの言葉にフランは残念そうに目を伏せる。
「すみません。早とちりをしてしまって」
「お母さん、帰ってこないの?」
リリィが心配そうに尋ねればフランはえぇ、と頷く。
「五年ほど前になります。少し出掛けてくると言って島を出ていき、そのまま__」
「五年?しかも島を?」
「えぇ。母が他の島に出掛けるのはよくあることでしたので、それ自体は心配していなかったのです。ですがいつもは長くても一週間ほどで帰るのに、その時は半月待っても戻らず……」
それはどう考えても何かに巻き込まれていると考えた方がいいだろう。同様の考えに至ったのか、トウドウもまた眉を寄せた。
「そいつァ結構な年月だな。通報はしなかったのかい」
「何度か考えましたが、母と軍を繋げるようなことは避けた方が良いと父が言うもので。リリィさんと一緒にいる貴方がたなら、分かるのではないかと思うのですが」
「知ってんだな。リリィやアンタの母親がどんな存在か」
エースの呟きにフランは何も言わずただ微笑む。何を、と問い掛けない時点でそれはエースの問いへ肯定しているようなものだった。