第20章 寺と鎖
チャリ…
鎖がうねるようにして此方へ向かってくる。…と言う事は…。
「…やっぱり、後ろから来ますよね。」
ブォォォン…!
思った通り、鉄球は背後から此方に向かって来た。恐らく目の前の鎖は囮、背後が本命だろう。私は即座に左に飛び移り、呼吸を整え彼女に向かって刃を向けて走る。鉄球の最大の弱点は近距離戦。遠い場所には有利だけれど、近い敵には対応が上手くできない。そこをついて、速さで仕留める。私は自慢の足で蝶の様にひらひら躱しながら、彼女に向かっていった。
「………。」
ブォォォン…ゴゥゥゥ!!
次は上から潰すように鉄球が降ってくる。なるほど、さっきの跳躍を見て、空中を警戒しましたか。いい判断です。……でも、それだけじゃ甘いですよ。
「……っ!」
私は移動の速度を上げ、彼女に徐々に近づく。
「…遅いですよ?」
ジャリっ…ゴゥゥゥ!!
彼女が再び、鉄球を此方に振ってくる。
「……っ。」
無表情だった彼女に焦りが見え始めた。流石にここまで粘られると思わなかったんだろう。次第に険しい顔になっている。…それにしても、辺りがひどい有様だ。地面は抉れ、木は鉄球が当たる度になぎ倒されている。
「…これ以上続けても此方のお寺に迷惑をかけますし、もうそろそろ終わりにしましょうか。」
私は彼女に笑いかけながら言った。すると彼女は此方をまた無表情で見た。
「…まだ、終わってないです。全員消さなければいけません。」
また無表情で恐ろしい事を言い出す少女。
「…いいえ、終わりです。此れで決めます。」
私は刀を構え直し、突きの体制になる。それを見ると、少女は警戒した様子で鎖を振り、鉄球が此方に向かって来た。私はその瞬間を確認し、呼吸によって跳躍する。
「…っ、何処に…!」
その瞬間、この場所の時は止まったようだった。
「蟲の呼吸 蝶ノ舞 戯れ」
ざしゅ…
「……蝶?…何が…?」
少女は不思議そうに此方を見てくる。自分がどうなったのか分からないようだ。私はニッコリと笑い自分の胸を指差した。
「…えっ…?刺…され…た……?」
バタンッ…!
少女は私の前に倒れた。
「心配しないで下さいね、ちゃんと手加減しましたし、毒はただの痺れ薬と眠り薬を調合した物ですから。大人しくさせるのは無理そうなので保険の眠り薬です。…終わりましたよ、皆さん。」