第19章 鋼と牙を持つ者
「…前、言いましたよね?……あなたには関係ないって…。」
私は顔を下に向けた。
「…正直、俺も何であんたの為にここまでしてるんだろうって思った。…でも、あんたに周りを頼れって言ったのは元はといえば俺だったし。次は、ちゃんとあんたに頼れって言いたいから。…貸しは嫌いだから、返す。」
「…そうですか。ふふっ…随分と頑固な方ですね。」
「…それは、あんたもでしょ?」
「ふふっ…そうでした。」
私も、絶対に譲れない人間でしたね。そうしていると、部屋の前まで来てしまった。
「家康さん、悩みを聞いてくれてありがとうございます。…少しだけ、楽になりました。」
「…そう、やっぱり教えてくれないんだ。」
家康さんは不貞腐れた様な顔をして此方を見てきた。
「…少し時間を下さい、心を整理する時間を。ちゃんと言えるようになったら、家康さんに一番に言うので受け止めてくださいね?…私が笑う理由を。」
「…分かった、待ってる。」
そう言うと、彼は元来た道を戻って行った。
「…姫様、漸くお戻りになりましたか。お疲れ様でございます。」
「陽…。うん、疲れたけれど…少しだけ、楽になったわ。」
私がそう言うと陽は微笑んでこちらを見た。
「…ふふっ…左様でございますか。…夜も遅いので早くお休み下さいませ。」
「…うん、そうするわ。」
私は笑顔を少しだけ外して、嘗ての姉との日々を思い出しながら眠りについた。
夢の中の姉が嬉しそうに私を見て笑っていた気がした。…そして、私もそこで笑っていた。
場所は変わってある寺の近くの森。
「…さて、一体何処に行ってしまわれたのでしょうか?」
少女は血塗れの鉄球を引きずり顔に返り血を浴びながら、辺りを捜索する。…自分を襲ってきた者を殺害するために。
「…おいおい、嘘だろ、なぁ?!…相手はたった一人の女のガキだぞ?!…こんな簡単にも俺達が負けるなんて…。数十人居たのがこんなにもあっさり…っ!」
男は逃げる、仲間が次々と血を撒きながら倒れていくのを見ながら。ただただ、あの怪物から逃げるために森の中を駆け回っていた。
「…くそっ、何がどうなってやがんだよ!話がちげぇーじゃねぇーか!!…弱ってるんじゃねぇーのかよ?!」
「…たとえ、私が本来の力を出せずともそれであなた達の勝利が決まるとでもお思いですか?」