第19章 鋼と牙を持つ者
…パラパラ
夜になり、私は何回目かの薬の勉強会を家康さんと二人きりでしていた。何故か、陽が差し入れを持ってくる度に毎回、ニコニコするので変な気持ちになる事も慣れた。そして今は、私の薬の調合用の器具、新しく作った医療用の器具も交えて、筆で書きながら勉強中である。家康さんがとても勉強熱心なので此方も教え甲斐があるというものだ。
「…ここってどういう意味?」
「…何処ですか?」
「この、血糖濃度ってやつ。」
「…ああ、此れは…」
そうして、教えている内にまた時間は過ぎていくのだ。最近は、教えることが楽しすぎて、規定の時間を超えてしまう事が悩みだが。
「…ふぅ、今日はここ迄にしましょうか。鼠の刻ですし。」
「…もう、そんな時間か…。ごめん、また時間伸びた。」
申し訳なさそうな顔をする家康さん。…最近この顔を見る事が癖になって来ているのですが、私は大丈夫でしょうか?
「ふふっ…私も教えるのはとても楽しいですから。家康さんは物覚えが良くて助かります。」
私が微笑むと、彼は少しだけ口角を上げた。
「なら良かった、…明日も宜しく。」
「はい、ふふっ…。」
私は部屋を出て、自室に帰ろうとした。
「…待って、夜遅くだから部屋まで送ってく。」
「あら、私は別に平気ですよ?」
そう言うと、彼は呆れて此方を見てきた。
「…はぁ、あんた本当に女の自覚無いよね。」
「ふふっ…ごめんなさい、こればっかりは申し訳ないです。」
「……。…自覚が無いなら、尚更送る。危なっかしいし。」
「…はい、ありがとうございます。」
耳を赤くしながら明後日の方向を向く家康さんが可笑しくて私はクスクスと笑ってしまった。…丁度、吹いてきた夜風が気持ちよく感じた。
「…ねぇ、最近何か悩みあるでしょ?」
廊下を一緒に歩いていると突然話しかけられた。
「本当に藪から棒ですねぇ…。あの時と同じみたいです。」
「…あの時って、ああ…あんたが来たばかりの夜のこと?」
「…ええ、そうです。今考えてみると、家康さんは大分素っ気なかったですよね。私もあなたの事苦手でしたし。」
私はあの時の夜のことを思い出しながら笑った。
「…俺も疑ってたしね。…でも、今は違うけれど。」
私の方を見て口角を上げて微笑む彼。…少しだけ、変な気分になりました。