第19章 鋼と牙を持つ者
皆様、ここだけは私、陽のお話で御座います。
少し時間は遡って、私が一昨日に家康様が姫様を咎めていらっしゃるのを止めたところからです。
「…ちょっと、あんた一体どこに行ってたの?…ちゃんと、休めって言ったのに…。」
日はもう落ち始め、所々暗くなった城下。城の門の前にある橋には家康様が怒った様子で、姫様を待ち構えていました。
「…あら、心配して下さったのですか?それはそれは、ご迷惑をお掛けしました。」
姫様は何事もないかのように、笑顔で返されました。
「…本当に、反省してる?…実はしてないでしょ?」
「ふふっ…バレちゃいましたか。」
「…あんたねぇ…。」
にこやかに笑う姫様を見て、こめ髪を押さえる家康様。私はこの様子を微笑ましいと思いながら見ておりました。…最近の家康様を見るとよく姫様を気遣って居られます。私はもしかしてと思い家康様に近づき、耳打ちをした。
「失礼いたします、お耳をお貸しください家康様。」
「…なに、陽?」
家康様は私には耳を貸してくださった。
「(ボソっ)…家康様は奥手過ぎます。此れではいつまで経っても、姫様をものにできませんよ?」
すると、家康様は顔を真っ赤にして勢いよく私から離れた。
「…っ!はぁ!?…な、なっ…。」
私は更に家康様に近づき、話を続ける。
「(ボソっ)…気になっておられるのでしょう、あの時から。」
「…っ!」
そうです、実は姫様が私と家康様を仲直りさせてくれた後から、家康様はよく姫様の事を目で追って居られるのです。その、初々しさといったらもう…。私はニコニコしながら、家康様を見つめた。
「……?二人してなんの話をしているんですか?私を置いてきぼりにしないで下さい。」
少し膨れた顔をする姫様。…家康様の反応がさっきから面白くて笑ってしまいそうです。
「…っあ、あんたには、関係ない話だから!…先に行く!」
そう言うと、家康様は一目散に早足で行ってしまわれました。
「…変な人ねぇ、そう思わない陽?」
「…ふふっ、本当に。…素直じゃない方ですから。」
「ふふっ…それっていつもの事じゃない?」
「…そうで御座いますね。」
姫様は向けられる感情に人一倍敏感だ。…特に敵意などは、武将達とのやり取りを見て分かる。…でも、想われることには慣れていないみたいですよ。
此れから大変ですね、家康様。