第19章 鋼と牙を持つ者
それを聞いた途端に彼は苦笑いを浮かべた。
「あのなぁ…俺だって、誰も彼も疑っている訳じゃ無いんだぞ?…お前は、ちゃんと信用できる奴だって判った上で信頼しているんだからな。」
秀吉さんが私に微笑んでくれた。
「…でも、もしかしたら裏切るかもしれませんよ?信長様の御膳に毒をもるかもしれませんし…。」
そう言うと、彼は呆れたような顔をしながらも、微笑んで此方を見た。
「そんなことするやつだったら、俺が何かする前に、とっくにお館様自身が断罪している筈だ。でも、そんな事は起きなかった、それに何より、城下の人達のお前の評判を聞けばお前がどんなやつかってすぐ分かる。……あんまり、大人を舐めるなよ?」
秀吉さんがからかうような視線で私の方を向いてきた。私はその視線がくすぐったくて、そっぽを向いてしまって彼に、笑われてしまったけれど。
「…お待たせ致しました、みたらし団子と前茶で御座います。」
機械質な声が聞こえて後ろを振り向くと、そこに立っていたのは、珍しい白銀の髪を持つ顔の整った少女だった。…年は私くらいでしょうか?
「おう、ありがとな。」
秀吉さんはにこやかに少女からお盆を受け取った。
「…はい、失礼いたします。」
少女はその様に話すと、スタスタと店内に戻ってしまった。…珍しいですね、秀吉さんのお得意の微笑みが通用しない相手がいるなんて初めてです。私は彼女に興味を持ち、丁度近くに来た、女将さんに聞いてみることにした。
「あの、少し宜しいですか、女将さん?」
「おや、何だい?」
「あの少女は女将さんの娘さんですか?」
そう言って私は店内でセカセカと働いている彼女に視線を向けた。
「…ああ、あの子かい?あの子の名前は、冬(ふゆ)と言ってね、つい最近此処で働き始めてんだよ。確か、数週間くらい前だったかな?」
「…なるほど、とても働き者の良い子ですね。」
「そうだろう?…ただ、冬の奴は中々笑わなくてね、あたし等はあの子の笑ったところをこれ迄に一度も見た事が無いのさ…。……あっ、変な話をしちまったね、ごめんよ姫様。」
「……いいえ、教えて下さりありがとうございます。」
女将さんはお客さんに呼ばれて私達のもとを離れていった。
「…どうした、団子食べないのか?」
「あっ…いえ、頂きます。」
私は、あの少女の事が頭から離れなかった。