第17章 幼き日の思い出
当時の家康様は今とはまるで別人でした。与えられるもの全てに怯えているような方でした。そして、家臣たちの恨みをぶつけられ続け、大変疲弊して居られました。唯の女中でしかなかった私は、家康様をお助けすることができず、いつも泣いていた家康様を慰めることしかできませんでした。…家康様はよく言っておられました。何故、自分なのか。どうして自分はこんなにも弱いのか。そう何度も何度も私に仰られていました。…私はそんな家康様をどうしてもお救いしたくて、一度家臣の方に抗議したのです。
『…いい加減お辞めください、子供相手になんて酷いことをなさるのですか!まだ、10歳にも達していないお方なのですよ?!』
『煩せぇ!女中の癖に出しゃばりやがって!お前が口出しするな!!おい、お前らこの無礼な女を牢獄へ連れて行け!』
ガっ!!
『…っがは…!』
私はその方に思いっきり腹を蹴られ、意識を失い、気がつけば牢獄にいました。私はずっと牢獄に入れられたまま…そして何年も過ぎ、気がつけば今川家は織田家に壊滅させられていました。そして、私は牢獄であるお方と出会いました。…それが信長様でした。
『貴様か、家臣に歯向かったという女中というのは。』
『あなたはいったい…?』
『俺は尾張の領主、織田信長だ。貴様、俺の下で働く気はないか?』
『…何を巫山戯たことを仰っているのですか?私は今川の者ですよ?』
『ああ、確かにお前は今川の女中だ。…だが、非常に優秀であったと聞く。だからこそ、俺はお前を此処で野垂れ死にさせたくない。…俺と一緒に来い、陽。天下人の女中となれ。』
本当におかしな方だと思いましたよ。何せ、敵方の女中に自分の下で働けって言うのですから。でも、不思議と悪い気は致しませんでした。何せ私は女中の仕事に誇りを持っていましたから。主君は違えど、其処に目的があるなら。主の理想の実現の為のお手伝いが出来るのならと、信長様の申し入れを承諾したのです。そして、安土で働き始めて数日後、家康様と再開しました。私は家康様がご無事だった事がとても嬉しくて、つい話しかけてしまいました。
『…家康様!お久しぶりで御座います!お会い出来てとても…』
『…なんで、あんたここに居るの。』
『…えっ?』
『…なんで、お前がここに居るんだって言ってんだよ!』
『…家康、一体どうなされて…。』