第17章 幼き日の思い出
「…それを、お話したところで一体何になるというのでしょうか?…姫様が何とかしてくれるとでも仰るのですか?」
陽は苦しそうに微笑んだ。
「なんとかしてみせる、なんて無責任なことは私には言えない。正直、ここに来て分からないことだらけだもの。でも、あなたの痛みを理解することは出来る。何とかしようって一緒に考えてあげる事ができる。私が心の許せるあなたを助けてあげたいって思ったら駄目?」
私は膝をおって彼女を見つめた。
「…姫様はそんな事お気になさらないでいいのに。」
「ふふっ…だって私は元々姫って柄じゃないもの。」
「ふふっ…そうですか。」
陽は少し泣きそうになりながら、笑った。
「…少し長くなりますが、よろしいでしょうか?」
「ええ、その為に人払いしたのよ?」
彼女と笑い合いながら、私は彼女の話に、耳を傾けた。
「…もう、何年前でしょうか。私が、家康様と出会ったのは、あの方が人質として今川に来られた時です。元々、私は織田家ではなく今川家につかえていました。つまり、信長様に今川家から引き抜きされて、この安土で働かさせて頂いているのです。」
私は、幼い頃から容量が良く村の中でも一番の器量良しとして扱われていました。そんな時に、先代の今川の領主様が私の働きを見て、是非女中になって欲しいと言われたのです。それを聞いた両親もまさか、領主様直々に指名が来るとは思ってもおらず、当時とても喜んでいました。私自身も領主様のお役に立てるならと今川家の女中として学ぶことを決意しました。最初はとても辛く苦しいものでしたが、一度決めたことを曲げることが嫌いだった私は、決して弱音を吐きませんでした。そうしていく内に、女中としての身分を上げていき、女中達の長になりました。そんな時でした、幼い家康様と出会ったのは。…当時の今川家の雰囲気は余り良いと言えるものではありませんでした。いつも、何処かぴりぴりしていて、戦の話になると皆顔色を変えて苛立っていました。何せ、当時の当主様は今川義元様。その方は戦を余り好まず、風流や芸術に没頭されておりました。そうした状況下で家臣の間で不満が募り、その不満の矛先が当時はまだ幼かった家康様に向いてしまったのです。それもそのはずでした、何せ義元様は大層、家康様を可愛がられておりましたし、家臣たちはそれが許せなかったのでしょう。