第16章 額に傷を負った僧侶
「…なるほど、ですが診療所の建設にはまだ時間が掛かるのでは?」
「…それについても、問題ない。今夜中に出来上がるだろう。…と言っても元々あったぼろ屋敷を整えただけだがな。……猿。」
「…はっ!準備は着々と進んでおります。…あとはしのぶ自身が内装を確認するだけかと。」
私は秀吉さんの言葉を聞いて、とても驚いた。…だって、一日ですよ?一日です!そんな簡単に出来てしまうものなのでしょうか?…あっ、そういえば、秀吉さんって、一夜城の方でしたね。歴史の本で載ってました。……どれだけ大工さん方を酷使したのかは聞きたくありませんが。
「さて、診療所の名だがなんと名付ける?」
信長様に問われて少し固まってしまいましたが、正直名前までは考えていませんでした。…なんて名前をつければ…っ!
「……………蝶屋敷でお願いします。」
「ふむ、蝶屋敷か。蝶姫と呼ばれておる貴様の為のような名だな。よかろう、その名にせよ、猿。」
「はっ!承知しました、お館様。」
信長様が面白そうに喉を鳴らし、秀吉さんに命令する。私の診療所といったらやっぱりこの名前がしっくりきます。
「さて、家康。今日はしのぶとの逢瀬はどうだった?」
「…ぶっ!!」
「ちょっ…汚いです、家康さん!」
「……ごめん。……信長様、からかわないでください。」
信長様が面白そうに、家康さんの方を向いて話すと、彼は面白くなさそうに信長様を睨んだ。
「あっ…それ、私も気になります。御二人はどちらに行かれたのですか?」
「…(ボソっ)それを素で聞いてくるから腹が立つ。」
「…え、何か言われましたか、家康様?」
「……煩い、三成。お前が入ってくると余計にややこしくなる。」
また、面倒くさい事になりましたねぇ…。三成君は何故、怒られているのか分かっていませんし。
「クックックっ、家康では話さないか…。しのぶ、貴様はどうだった?」
「はい…贈り物を頂きました。」
「…ほぅ?…一体何を貰ったのだ?」
「簪です、黄蜀葵の。」
「…へぇ?」
「…なるほどな。」
「…クックックっ、家康も隅に置けないという訳か。」
…いや、まさかあなた達の考えているような意味ではないと思いますけれど。流石に、会ったばかりですしね…。
「…もういいよね、さっさと勉強しに行くよ、しのぶ。」
彼は私の手を引いて、大広間から出た。