第16章 額に傷を負った僧侶
「…顕如とは一体何なのですか?」
私は不思議に思い、秀吉さんに問いかけた。
「顕如という奴は、嘗てお館様が火を放った寺の僧侶だ。そのお陰で、お館様にとてつもない恨みを抱えている。…なるほど、それなら色々と説明が付く。」
私に説明してくれたあとに、下を向いてブツブツと呟く秀吉さん。
「…顕如さんって元はいい人だったのでは?」
「嘗てはそうだったかもしれないけれど、今は違う。…お館様を亡きものにする為ならば、どんな手でも使ってくる。まさに、復讐の鬼だよ。」
私は家康の言葉に反応して、呟いた。
「…復讐の鬼ですか。」
私も、その人と大差無かったのかもしれない。私の、人生は全て彼奴への復讐の為だったんだから。…別に、後悔はしていないけれどただ分かるのは、復讐に全てを掛けたところで、結局何も残らないことだ。彼奴に対する憎悪が膨れ上がっただけだった。
『しのぶ、幸せになってね。』
「…(ボソっ)うん、幸せだったよ。姉さん。」
思い出の中の姉の微笑みが脳裏に焼き付いた。…毒を作っている時は、ただ必死だった。…幸せなんか要らないって思ったんだよ、姉さん。
「…しの…しのぶ……しのぶ!!」
「…は、はい?」
家康さんが怪訝そうな顔で此方を覗き込んできた。
「あんたに関することだから真面目に聞いてて。」
「…私に関するとは一体?」
「今日の昼間言ったでしょ?…顕如が次に狙ってくるのは、間違いなくあんただって。」
家康さんは少し呆れたような顔をして言った。
「何故私が狙われるのでしょうか?」
「それは、お前が織田家ゆかりの姫だからだ。」
光秀さんが、私の問に直ぐに答えてくれました。
「…なるほど。織田に恨みを持つ顕如が弱点を探ろうとしている中で、突然織田家ゆかりの姫が現れたら、そりゃあいい餌になりますもんね。」
「そういうことだ、お前は理解が早くて助かるな。」
光秀さんが謎の微笑んでいるのか観察しているのか分からない笑みを此方に向けてきた。
「ふふっ、私も結構頭が回るものでして。」
私も負けじと彼に微笑んだ。
「それじゃあ、私が診療所をやるのってかなり危険じゃありません?」
「それは違う、寧ろやった方がいいんだ。…診療所となればひと目に付きやすい。姫一人で行動しているよりも、周りに人が大勢いた方がいざって時に、情報が早く伝わる。」