第16章 額に傷を負った僧侶
「えっ…熱でもあるんですか、家康さん?」
「…何、喧嘩売ってんの?」
「いえいえ、そんな事は…。」
正直、頭でも打たれたのかと思いましたよ。私はもう一度、チラッと彼を見た。…眉間に皺が寄ってますけれど大丈夫ですか?
「でも、なんで急に…。」
「…言っておかないと、このあとに一緒に勉強するから、気まずいし。」
…完全に忘れてました。そういえば、夜に勉強するんでしたね。
「やっぱり、許せない…?」
「…いいえ、私も少し言い過ぎましたし、お互い様ですよ。」
「…そう、ならいい。」
そう言うと、またモクモクと真っ赤な食べ物…?を食べ始めた。…あれってやっぱり、健康に良くないのでは…。……あっ、そういえば!
「…家康さん、本能寺の放火の犯人についてなんですけれど。」
「ああ、そういえばまだあんたには言ってなかったね。…正直、俺達も手探り状態なんだ。何せ、相手側も中々尻尾を見せやしない。」
そう言うと、家康さんは心底嫌そうな顔をした。
「なるほど。…その犯人についてなんですけれど、もしかしたら、私その方を見たかもしれません。」
「…っ!それ、本当?!」
いきなり此方に顔を向けられて、流石に怯む。
「は、はい…。えっと…信長様に会う前の事なんですけれど…。」
ゴォォォォ…
「この辺りの風は特に強いですね、どうしてでしょうか?」
私は木の幹を飛び移りながら辺りを捜索していた。そんなときだった。
「…こ…で……、……の…な……ころ……。」
「…っ…、わ…ら………が、…な………。…けんにょ……。」
このとき私は、何故かこんな暗い森でヒソヒソと何かを話している集団を見つけたのだ。その集団の一人は、僧侶と思われる身なりで顔に刀傷がある男だった。近くに行って話を聞こうと思ったが武装している為危険と思い断念し、彼らの話を近くの木に隠れて聞いていた。…風がだいぶ強くてうまく聞き取れなかったが…。
「ええ…あの時間にあれだけの人間が、しかも刀傷のある僧侶がいるなんて疑ってくれと言っている様なものですよ。それと、彼の仲間の一人が彼をこう呼んでいました。……【けんにょ】と。」
「何っ!?顕如だと!!…っお館様!」
何処からか聞こえたのか秀吉さんが私の話を聞いて叫んだ。…三成君の説教をしていませんでしたか?
「…ふっ、しのぶ良くやった、大手柄だ。」
信長様が口角をあげた。