第16章 額に傷を負った僧侶
「えっ…本能寺の放火の犯人って、まだ捕まっていなかったんですか?」
私が驚いたような顔をすると、家康さんは苦味を潰したような顔になった。
「うん、…でもこの話は城で、今はひと目に付き過ぎる。」
…そういえば、今は見物客に囲まれていましたね。この横たわっている、男性も運ば
「っ…お前さん!小梅!」
何処からか聞こえてきた、女性の声。…もしかして。
「…あの、其処で見ている方、女性を通してあげて下さい。」
そう言うと、私の言葉通り道を開けてくれた人たち。その間を、ある女性が息切れしながらやってきた。
「…お母さん!」
やはり、家族の方でしたか。女の子は女性の方に走って向かい抱きついた。
「小梅、何があったんだい?!」
「…あのね、お母さん。あのお姫様がお父さんを助けてくれたの。」
そう言って、女の子は此方を向いた。丁度、女性とも目があったので、挨拶代わりに頭を下げた。
「…お姫様?何言って、…い、い、家康様?!」
私の隣にいる家康さんに気づいたらしく、驚いて頭を下げた女性。
「もっも、申し訳御座いません!…娘が何か無礼な事をしてしまったでしょうか?」
「いいや、俺はあんたの旦那さんが倒れているのを介抱しただけ。…あんたの旦那さんが蜂に刺されて死にかけているのを助けたのは織田家ゆかりの姫だから。俺は手伝っただけ。」
その言葉を聞くと、女性は嬉しそうに涙を流し、頭を私の方に下げた。
「姫様とは知らず、御無礼を致しました!それと、私の旦那を救っていただき本当にありがとうございました!!」
「…えっと、私は…」
「姫様!お父さんを助けてくれて、ありがとう!」
女の子に満面の笑みでお礼を言われて心が温かくなった。そして、私も微笑みを彼女達に向けた。
「ふふっ…助けられて、本当に良かったです。」
私はまた、一人の命を救うことができたよ、姉さん。
そうして、男性はその女性と女の子に運ばれて、この場所をあとにしたのだった。次第に、見物客もいなくなっていった。…やっと、終わったって感じですか。
何か、とても長く感じましたよ。どっと疲れていると、隣から声がした。
「…お疲れ。」
家康さんがわかりづらいけれど、少しだけ笑ったような気がした。
「ええ、本当に疲れましたよ。…少しは信用してくれました?」
「…まあ、少しだけ。…ん。」
彼が片方の手を出してきて、私はその手を握った。