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戦乱の蝶姫

第15章  ある忍の独白 その弐


幸村はそう言うと、もう一度此方を向いた。
「…正直、納得はしてねぇ…。」
「…うん。」
「…お前にはもっと、他にやるべきことが有るだろうって言いたい。」
「……ごめん。」
「…っ、でも!…お前が、自分で考えて決めた事なら、俺はそれを尊重したい。」
「…幸村。」
俺は幸村と向き合って、強い眼差しをぶつけられた。……俺の友人が君で良かった。
「…ありがとう。」
「…春日山城の皆には迷惑掛けない程度でな。特に、信玄様に!」
「…謙信様は良いの?」
「ああ…あの人は大丈夫だろ、お前が家臣やめるって言ったら地の果てまで追いかけて来そうだしな。」
「確かに、謙信様ならそうするだろうね。…斬る、の言葉付きで。」
「…クック…確かにな。」
幸村と笑いながら、俺達はその場をあとにした。…胡蝶さん、いずれ君ともまた、会える日が来ると思う。その時は君の一番の味方になってあげたい。…幽霊さんと約束したからね。
そうして、俺はそれぞれの主の下へ戻ったのだ。

甘味処に戻ると、何故か不機嫌な謙信様しか居なくて、信玄様が居なくなっていた。
「…佐助、どこで何をしていた。」
「謙信様、どうどう。…いきなり刀を抜こうとしないで下さい。」
「ていうか、信玄様はどーしたんすか。」
幸村がキョロキョロと辺りを見回している。
「…彼奴なら、美しい天女を見つけたとか何とか言って、何処かにきえた。」
「ああ…!あんの、女たらし!!…すいません、呼び戻して来ます!」
そう言って、幸村は何処かに行ってしまった信玄様を探しに行ってしまった。…頼む、幸村。帰ってきてくれ、俺じゃこの不機嫌な謙信様を宥められない。
「…佐助、一体何処で何をしていた。正直に答えろ。さもなくば、斬る!」
「…謙信様、刀をしまってください。他の客か怯えています。謙信様の挨拶は他の人には分かりませんって。」
周りの客が謙信様の刀を見て、叫び声をあげながら次第にいなくなっていく。
「いいから、さっさと言え。」
「……、少し昔の友人に会っていました。…それだけです。」
少し、嘘を混ぜた。…じゃないと、真面目に斬られる。
「…嘘ではなかろうな?」
「…はい。」
俺の言葉を聞くと、謙信様は刀をしまってまた梅干しを食べだした。…甘味処に梅干しを持ってきていたんですね。俺は、呆れながらもこの困った主に遣える喜びを知ってしまったので、逆らえないのだ。


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