第15章 ある忍の独白 その弐
野次馬を掻き分け、目に映った光景は驚くべきものだった。其処には顔立ちの整った男性と彼女が教えてくれた、【胡蝶しのぶ】さんが居たのだ。俺は、目を見開き彼女を凝視した。よく見ると、彼女が注射器を扱っている様だった…。医学の知識も持っているなんて…。俺は、昨夜に見た彼女の姿に驚いて硬直していた。
「…おい。佐助…佐助、…さ、す、け!!」
耳に大きな音が突然入ってきて、音のした方を振り向いた。
「何…幸村?……急に耳元で叫ばないでくれ。」
「何度もよんだっつーの!たぁっく…、で?どうしたんだよ、お前が固まってるのなんて珍しいじゃねぇーか。」
不思議そうな顔で幸村が俺に問いかけてきた。
「……知り合いの、妹さんを見つけたんだ。」
「…ん?それって、お前が、昨夜言ってたあの……幽霊ってやつの?」
幸村が怪訝そうに此方を見てきた。…なに、その顔?
「…ああ。」
「はぁ…!?お前やっぱ、頭いかれてるって!誰が信じるんだよそんな話!!」
幸村は呆れたような顔で俺を見てきた。
「…確かに、馬鹿げた話かもしれないけれど…。あの人は、俺の恩人から託された人なんだ。」
そう言って、俺は彼女の方を見る。………?…薬草を煎じたけれど、布が無いってところか…。
「おいっ…佐助!」
俺は幸村の静止を無視して、彼女の下に駆け寄った。丁度、現代から持ってきていて大切に保管していた物を渡すために。野次馬の中に入り、彼女の下へ足を進める。
「…此れ使ってください。」
そう言うと、彼女と目が合った。…よく見ると、顔立ちなんか本当に良く似ているな…幽霊さんに。
「ありがとうございます、頂きます!」
そう言って、彼女は俺の手からガーゼを取った。その後、俺は、役割を果たしたと思って野次馬の中から出る。すると、幸村化真剣そうな目で俺を見ていた。
「…幸村?」
「…佐助、本当に夢じゃないんだよな?」
真剣な表情で聞かれて俺は、即座に返した。
「うん、さっき言ったように俺の恩人の妹さん。彼女の力になってくれって言われたんだ、幽霊さんに。」
「はぁ……それは、謙信様を裏切ってもか?…あいつの隣にいるの、ありゃあ徳川家康だぜ?間違いなく、織田軍の人間だ。」
「……ごめん、幸村。どちらかを選べって言われたら、迷いなく彼女を選ぶ。だって、約束したから。」
俺は、真っ直ぐ彼の瞳を見つめた。
「……仁義は通すって訳か。」