第13章 ある忍の独白
此れは、夢物語でもなんでもない。俺自身が経験した話しだ。…俺の名は猿飛佐助。春日山城の主である上杉謙信様の家臣であり、そして軒猿のまとめ役の忍でもある。だが、俺には周りに決して言えないような秘密がある。…それは俺が、500年後の日本からこの戦国時代に来たって事だ。なぜ、そんなことを言っているのか、それは俺がタイムスリップをした現代人だからである。だが、この話を聞いても、到底、信じられないと思うので俺がタイムスリップした経緯について話そうと思う。
それは四年前に遡る。当時、俺は大学院生で宇宙力学を学んでいたときに、タイムスリップという非科学的なモノに興味を示した。それを調べていく内に、タイムスリップ出来る日にち、場所、そして時間を漸く見つけ出し、本能寺跡地でそれをただじっと待っていた。そして、光に俺は飲み込まれた。…幾つもの時空の歪みのような世界で、氷のような世界が壊れる瞬間も見た。その時、壊れた世界から、一匹の美しい蝶が出てきて俺の行く先に飛んでくれた。緑色の羽にピンク色の縁取りをした、美しい蝶。それは、まるで道案内をしてくれているかのようだった。あれは、一体…?……幸い、タイムスリップは上手くいって、飛ばされた場所が謙信様の所だったので、謙信様を助けたことから彼と一緒に居ることになり、その中で武田信玄様や俺のズッ友である真田幸村と出会った。
そんなこんなで、俺の戦国ライフは毎日刺激的な楽しいものだった。…あの事件が起こるまでは。
ゴォォォォ…
それは、本能寺が放火されたとき。つまり、西暦1582年の本能寺の変が起こったときだった。…織田信長を助けようにも、俺は謙信様の家臣になり、敵対する間柄となっていたため、助けることは出来ないと悔やんでいた。そんなときだった…。頭上に一人の美しい女性が飛んでいたのだ。とても、高く高く。それも、この暗い夜の森を。俺は、謙信様達に呼び止められたにも関わらず、その女性を追ってしまった。女性はとても速く、少しでも気を抜けば置いて行かれそうだった。俺は何とか彼女の後を付け、物陰からチラッと見つめた。どうやら、少年を救けたみたいで、暫くすると炎の中に消え、その後に男性を抱えて飛んできた。
とても、不思議な女性だと思った。…恐らく、あれが織田信長だろう。俺は、安心して謙信様の所へ戻ろうとしたが、声がした。
『…あの子のことお願い。』