第11章 蝶姫またの名を薬姫
「…蝶姫様って何ですか、それ?」
少し拗ねながら、政宗さんを見る。
「ほら、城の皆がお前の事そう呼んでるからさ。俺だって、呼んでも構わないだろ?」
周りを見てみると皆さん惚れ惚れした様子で私と政宗さんを見ている。
「まあ、蝶姫様がいらっしゃるわ。…今日もとてもお美しいわ。政宗様と一緒に居られると絵になりますね。」
「ええ、本当に!しかも、蝶姫様は薬にもお詳しいらしく、家康様に薬について教えてくださるそうよ。」
「あの家康様に教えて下さる方がいるなんて!とても知識がおありなのだわ。まさに、薬姫様ね!」
「本当に!」
また、噂が広まってます…。私はジト目で彼を見た。
「……そもそもの原因はあなたでは?彼女たちに聞いたら、あなたから聞かされたと言っていましたが?」
そう言って、後ろに控えている女中さん達をチラッと見た。
「おや…バレちまったか…。本人に言わないでくれって言ったのになぁ…。」
彼は流し目で女中さんたちを見た。
「ふふっ…申し訳ありません、政宗様。蝶姫様がお聞きになったのでつい…。」
…まあ、彼女達が楽しそうなので良いとしますか。ていうか、蝶姫様呼びですか…。
「おっ、怒ったかしのぶ?」
少し嬉しそうに私の顔を覗き込む彼。
「…ほんの少しですけれどね。ですが、彼女たちに免じて許して差し上げます。」
私はいたずらっぽい笑みを彼に向けた。
「ちぇ…笑った顔以外が見れると思ったのになぁ…。」
不貞腐れたように歩き出した彼に私はついて行った。
「あら、そんなに私を怒らせたかったのですか?」
いつもの微笑みで彼を見つめる。すると、彼はいたずらが思い付いた子供みたいな顔をした。
「だって、しのぶはずっと笑ってばっかりだろ?それって、疲れねぇの?」
「…そんなこと、考えたこともありませんでした。ふふっ…私を、怒らせられるといいですねぇ。」
そんな談笑をしながら、私達は大広間に着いた。
「遅いぞ、政宗!お前、しのぶを迎えに行くって言ったまま帰ってこないから、また何処かに行ったかと思ったじゃないか!」
開けた瞬間に怒った顔をした秀吉さんが現れた。いきなりですねぇ…。…そんな、救いを求める様な目を向けないでください政宗さん。嫌です、助けてあげませんよ。
「…朝からそんなに喚くな猿、朝餉が冷める。貴様らもそこに突っ立ってないで、早く座れ。」
…信長様が助け舟を出してくれた。