第11章 蝶姫またの名を薬姫
……組紐ですか、いいかもしれませんね。
「…それでお願いします。ごめんなさいね、面倒をかけさせてしまって。」
「滅相も無いですよ、しのぶ様。………しのぶ様、気を張りすぎです、もっとゆっくりなさってください。でなければ、お付きの我らが主に心を開いてもらえないなんて悲しいじゃないですか。」
彼女は少し困った様に、笑った。……気を張りすぎていたでしょうか。ずっと、笑っているように心掛けていたのですが…。
「…そんなに、迷惑を掛けてしまったでしょうか…?ごめんなさいね。」
そう言うと、彼女はまた困った様な顔になった。
「…迷惑、もっと掛けてください。私どもにもっとお世話をさせて下さい。しのぶ様はいい人過ぎます。せめて、私達の前では敬語を外してくださらないと…。いつか、疲れ切ってしまいますよ?」
彼女が真剣な顔をして私を見る。チラッと見てみると、周りの女中さんたちもそうだった。……少し、気持ちが楽になりました。
「…ごめんなさいね。せめて、あなた達の前では普通に話させてもらうわ。」
私はこのとき初めて、この世界で本当に笑えた気がした。
「…はい、是非そうしてください。それに、そちらの笑顔の方がずっと素敵ですよ、しのぶ様。」
女中さん達も柔らかく微笑み返してくれた。
「それと、私達は謝ってほしくてお世話させて頂いているのではありません。…お礼の言葉だけで十分なのですよしのぶ様。」
…敵いませんね、この方たちには私の仮面が通用しないみたいです。
「…ふふっ、分かったわ。……ありがとう。」
「…はい、そのお言葉が聞けただけで十分ですよ、しのぶ様。」
私はこの世界で初めて、心を許せる人達を見つけたのだった。
「まぁ…なんて美しいのでしょうか。やはり、私の見立てには間違いはありませんでした。流石はしのぶ様、何でも似合ってしまわれて、この組紐など霞んでしまいそうです。」
女中の方が私の髪型に目を向けた。今回の組紐は黄色となった。牡丹の着物の色と合わせたらしい。
「…ふふっ、ありがとう。それでは参りましょうか、大広間へ。……陽、お願いね。」
「……っ。かしこまりました、しのぶ様。(ニコっ)」
表情が顔に出にくいですけれど、嬉しい時はちゃんと笑う方なのですね。私は、襖を開けて廊下へ出た。
「…よう、やっと終わったかよ、蝶姫様。」
出た先の廊下では、何故か政宗さんが待ち構えていた。