第11章 蝶姫またの名を薬姫
「…えっと、大広間で皆さんが待っていらっしゃるとは一体…。」
不思議に思い、近くの女中さんに聞いてみる。
「しのぶ様、この安土城では朝餉は皆さん揃って頂いているのですよ。ですから姫様であるしのぶ様も、もちろんという訳です。」
「…ふふっ、皆さん随分と仲が宜しいのですね。」
私は彼女に微笑みながら、話しかけた。
「ふふっ…ええ、本当に。特に、政宗様と秀吉様が居るところでは、よく立ち止まって見ている者が多いんですよ?」
確かに、あの二人は一緒にいる事が多いですし、美形ですし…。女中の皆さんにとって、目の保養なんでしょうねぇ…。
「そうなんですか…。ふふっ…。」
女中さんと談笑に花を咲かせていると、わたしの着物が段々と決まっていくのが見える。陽さんが仕切っているみたいですねぇ。
「しのぶ様、宜しいですか?」
「はい、何でしょう?」
陽さんに呼びかけられ彼女の方を向く。すると彼女は一人の若い女性を連れてきた。
「この者が、しのぶ様に自分の選んだ着物を着ていただくのだと申しておりますが、宜しいですか?」
…そういえば昨日、約束しましたね。どうりで、この方に見覚えがあった訳です。
「構いませんよ、確かあなたは私に牡丹の着物を勧めてくださった方ですよね?ふふっ、今日はそれを着なければいけませんね。」
そう言って、彼女に微笑みかけると彼女は顔をほころばせた。
「覚えていてくださったのですね!ありがとうございます、しのぶ様。昨日の着付けの担当をさせて頂いた者でございます。」
「いえいえ、こちらこそ昨日はありがとうございました。…これからも、宜しくお願いしますね。」
「…はいっ!精一杯務めさせていただきます!」
お辞儀をしたあと、そう言って彼女は嬉しそうに女中の方々と準備に取り掛かった。
「しのぶ様、御髪は如何なさいますか?」
もう一人の女中の方が私に聞いてきた。この髪飾りは姉との繋がりの一つだった。姉と色違いの髪飾り。……蝶にこだわる理由も今はあまりないですね。もう、終わってしまいましたし。
「…しのぶ様?」
呼びかけられて、ハッとする。そして、彼女に申し訳ないと思い顔を向けた。
「…ごめんなさい、ぼぉっとしてしまって。…髪は変えてもらって大丈夫ですよ。…でも、申し訳ないのですか、私の髪は短くて…。」
「…では、髪型はそのままで飾りだけ変えましょう。……組紐は如何でしょうか?」