第11章 蝶姫またの名を薬姫
「…何を言ってるんですか、秀吉さん?ご自身が言っている意味分かってます?」
「……何言ってるの、秀吉さん。」
ニッコリと黒い笑みを秀吉さんに向ける。家康さんはすごい顔で秀吉さんを睨んでます。しかし、それをものともしないように彼は話しだした。
「…ほら、しのぶと初めて会った時に、言ってただろ?薬学の家の生まれで、薬に詳しいって。それなら、家康は薬に詳しいし、お互いに学んだらどうかなって思っただけだ。何せ、未来の薬について知れるからな。」
……よく、そんなことをいちいち覚えていらっしゃいますね。…しかし、なるほどそういう事ですか。確かに、この時代の薬に関しての知識が何処まで進んでいるのか気になります。…しかし、学ぶだけでは釈然としませんねぇ。どうしましょうか…。私は、チラッと家康さんの方を見た。どうやら、彼も深く考え込んでいるようで顎に手を置き、下を向いている。
「…俺にとっては嬉しい話だけれど、それってしのぶにとっては得は無いよね?」
そう言って、顔を上げて私の方を向いてきた。……私の名前、覚えてたんですね。まあ、それはさておき、そうですねぇ…。何かいい案はないものでしょうか?私がゔぅぅ〜んと唸っていると、爽やかな声が聞こえた。
「…でしたら、城下に診療所を開いてみては如何でしょうか、しのぶ様。家康様と薬について学ばれるのは仕事の関係上、夜になってしまうと思われます。ですので、昼間は診療所を夜は一緒に学ばれては如何でしょう?」
…なるほど!それなら、私も仕事が出来ますし、夜になら支障はないでしょう。
「それで、構いま…」
「ちょっと、待って。」
突然、家康さんに遮られました。…何なんでしょうか?不思議な顔で彼を見続けていると彼は呆れたような顔をした。
「…夜に一緒に学ぶって…。あんた、一応女なんだよ?自覚してないの?」
……忘れてました。薬が関わると私、思考が停滞するようです。…でも、それって今更じゃありません?
「私はそれでも構いませんよ。何せ、患者は男も女も関係ありませんからね。それに、家康さんもそんな人ではないでしょう?」
そもそも、医を志すものならそんなことは関係ありませんよ。私は、ニコニコと彼に微笑んだ。
「…分かった。あんたがいいなら此方は断る理由がない。」
少し顔を赤らめながら言う彼。…何だか、可愛いですね。ツンツンしているよりも、ずっといいです。