第10章 安土の蝶姫
「…今、何と申した?…毒だと?」
信長様が驚いたように私を見つめるので私は、さも当然の様に答えた。
「はい、鬼は毒で殺せます。」
…私のこの微笑みは彼らにとってどう映っただろうか?………私がこの様に笑うとお館様はいつも心配して下さった。無理をしないでおくれと困ったように笑う方だった。……別に辛いなんて思ったことはない。だって、早く姉さんの仇を打ちたかったから。…藤の花の毒が完成したとき誰よりも見せたかったのは姉さんだったから。……でも、姉さんがもし生きていたら、辛そうな顔をしながら、ごめんねって言うんだろうな。…私も、間に合わなくてごめんね、姉さん。
「……しかし、毒があるからといってどうやって使うんだ?戦いにくいだろ。」
政宗さんの言う通り、最初はとても苦労しましたとも。…でも、どうしても諦めきれなかった。
「それは、撃ち込むんです、毒を。…私の刀を実際に見てみてどう思いましたか、信長様?」
すると、皆さん、信長様に視線が向いた。そういえばと、最初に会った時に信長様の前で抜刀した事を思い出す。あの時は、良く間に合いましたよねぇ…。
「…随分と変わった形だと思った。なにせ、刀の先端にしか刃がついていないのだからな。」
「…ふふっ、そうです。実際に見せましょう。」
そう言って、私は自分の日輪刀を前に出す。すると、一斉に皆さんが警戒し出す。…あらあらぁ。
「あぁ…すみません、刀を見せるだけですのでご安心ください。」
「……その根拠は?」
鋭い家康さんの目が私を射抜く。
「幾ら手練でも、流石にこの人数を相手にするのは分が悪いですよ。あと、ことを起こしたところで私になんの得も無いですし。」
私は、ニコニコと殺気立っている彼らを見た。
「…皆、静まれ。俺はしのぶの話が気になる。邪魔をするでない。」
「…承知致しました、お館様。」
渋々と行った様子ですが、皆さん席に戻ってくれたようでなによりです。
「さて、先程の話の続きですが、此れは日輪刀と言って、鬼を首を切るのに使われる刀です。私の場合は毒を使うのでこのような、先端の部分だけに刃がある状態です。」
私は自身の愛刀を抜き説明を交えながら話した。
「…ふむ、先端を尖らせて、其処から毒を流し込むという訳か。……なるほど、考えてみると面白い戦法だな。だが、同時に恐ろしい戦法でもある。」
光秀さんが不敵に笑った。