第9章 安土という場所
…あの人、面白い話好きそうですもんね。後で、釘を刺しておきますか…。まあ、広まってしまったものは仕方がありません。
「…そうなんですか。あぁ、すみません。お仕事の邪魔をしてしまって。皆さん、お忙しいのに私の着付けなんか手伝わせてしまって…。」
少しだけ、しょんぼりした顔をすると、女中さんたちが慌てて手を前に出して、ブンブンと降る。
「そんな顔をなさらないで下さい、しのぶ様!私達、誰一人として、嫌だと思っていません。それに、しのぶ様がこんなに美人な方なんですもの。腕がなりますよ!ねぇ、皆!」
すると、その方に賛同するように「そうですよ!」と幾つも声があがった。…どうやら、心配は無用だったみたいです。いきなり現れた私に丁寧な対応をしてくれるのですから、皆さん本当にいい人たちなのでしょう。
「ふふっ、ありがとうございます。それでは、よろしくお願いしますね。」
微笑みながら言うと、「勿論です!」と元気よく返事をしてくれました。
「しのぶ様、どのような色がお好みでしょうか?」
「…そうですねぇ。よく、紫色の物を着ていると思います。」
「分かりました、紫ですね!」
「…しのぶ様、此方の柄は如何でしょう?牡丹を描いた物なのですが、しのぶ様の雰囲気にとても合うと思われます。」
「ちょっと待ってください!しのぶ様には、此方の蝶の柄の物のほうが似合います!なにせ、しのぶ様の名字と同じですから!しのぶ様、是非こちらを!」
「いいえ!絶対、しのぶ様にはこの菊の柄の物のほうが似合います!」
…女中さんたちが熱心すぎて選べません。どうしましょうか…。取り敢えず、早く決めないと大変ですね。私は、白熱している女中さんたちの間に入り、口論を中断させた。
「皆さん、落ち着いてください。勿論、どの柄もとても素晴らしいと思います。でも、私が一番好きなのは蝶なので蝶の柄でいいでしょうか?その代わり、さっき話に出てきた物は後日、着させていただきます。」
私は、仲裁案を出して、この場を収めようとした。女中さんたちを見てみると、まるで私のことを崇拝するかの様な目でこちらを見ていた。
「…私達が、言い合いをしていた事を咎められるのではなく、場を収めようとして頂けるなんて、なんてお優しい方なのかしら!」
「本当に!流石は信長様、素晴らしい御人をお連れになりましたね!」
…勘違い、加速してません?