第25章 血に抗え
一方、とある基地では秋雨という男が自分の思い通りにならない戦況に苛立ちを覚えていた。
ガンッ…!
男は自身の近くにある机を思いっきり叩き、そこに広げてある地図を睨みつけた。
「…クソがっ!…何故あの魔王の下に援軍が来る!?甲斐の虎も越後の龍も敵ではなかったのか!」
激昂する男の近くで控えて居た部下達はこれ以上、主が自身の拳を傷つける事を抑えようとその腕に手を伸ばすのを遮られる。
「へぇ…中々骨がある奴がいるじゃないか。丁度、相手が居なくて退屈していた所なんだ〜。」
嘗て、安土城下の闇で依頼者であった秋雨と交渉をしていた少年…。いや、この場合は青年と言った方が良いだろう。その青年は整った顔に笑顔を浮かべながら今さっき襲ってきた族共を返り討ちにしたため、特徴的な動きやすい着物に返り血がべっとりと付いていた。その青年の姿を見て秋雨は眉間に皺を寄せながらも呟いた。
「ふんっ…誰のせいでこのような事になったと思っている。お前が、最初から出ていればこのような事にはならなかったのだぞ?」
「おや?それは失礼したね。いやぁ…僕にも…いや、俺にもどうしても潰さなきゃいけない相手が居るもんだからさぁ…。…喧嘩を売られたらちゃんとお返しをしなくちゃね?」
青年は悪びれも無く、笑顔で秋雨の嫌味に返した。それを見ていて秋雨は溜息をつく。
「はぁ…本来ならお前を今すぐに計画から外したいものだが。あのお方のご意向だ、お前を無下にもできまい。」
「それは、それは良かった〜。」
いつまでも笑顔を崩さない青年にしびれを切らし始めた、秋雨は苛立ちながら呟く。
「…そういえば、本当に良かったのか?実の故郷を滅ぼして。お前の家族も居たんだろう?…勿論、お前の実の妹も…。」
秋雨がその言葉を言った瞬間に室内に異様な空気が漂う。その息苦しさに秋雨の部下は心臓が鷲掴みされた様だと後に語った。
「…辞めてくれる?その話を俺の前でしないで。…それに俺には妹なんて、…居ない。」
笑顔が急に消えて、鋭く獣の様な瞳を秋雨に向ける彼。
「ふっ…お前の取り乱した顔が見られて何よりだ。さて、もうそろそろ時間だ。…行くぞ夜咲(よざき)、魔王討伐だ。」
秋雨は青年の名を呼び、その場から去る。
「漸くか、待ちくたびれたよ魔王様。…俺はあんたを殺す為にここまで来たんだから。」
青年の金髪が靡いた。