第25章 血に抗え
私達は佐助君の提案に耳を傾けた。聞き終わって一番に家康さんが口を開く。
「…正気じゃないよね、それ。余りにも危険過ぎるんだけれど。」
「はい…本当に賭けです。…でも、もしやるとしたら、要はしのぶさんと謙信様のお二人です。お引き受けになりますか?」
佐助君が私と謙信様を交互に見た。私は覚悟が決まっているが、謙信様は…と思っていると意外にも、謙信様が口を開いた。
「…よかろう、佐助。貴様の案に乗ってやる。…但し、しのぶにかすり傷一つでも残せば……斬る。」
私はその言葉を聞いて、何としても佐助君の為に無傷で生還しなければいけないと思い、佐助君の方を見つめた。案の定、佐助君は謙信様を困った様に見つめている。
「…それ、全部俺のせいになるんですか?」
「当たり前だ、発案者はお前だからな。」
「…なんて、理不尽な…。…しのぶさん、頼むから無傷で帰ってきてくれ。」
佐助君が困った様な顔をしてこちらを見てきた。恐らく、本当に困っているだろう。私は彼の方を向いた。
「…なるべく、善処しますね。」
私が苦笑いをしていると、家康さんに手首を引っ張られる。そうして、また家康さんの腕の中に入ると抱きしめられた。先程と違うのは、傷口に触らないように力を緩めているところだった。私は、少しだけ固まってしまったが、家康さんが言いたいことが分かったので黙ってされたままの状態でいた。
「…ほんとに、無茶しすぎ。」
「…はい。」
「いつも、いつも、心配掛け過ぎ。」
「…はい。」
「いつの間にか、春日山城の奴等と知り合いになってるし…。」
「…ふふっ…怒るところはそこなんですか?」
私がクスリと笑ってしまうと、彼がムスッとした顔になる。
「…いいから、ちゃんと聞いて。」
「ふふっ…はい。」
私がそう言うと、彼は真っ直ぐ私の方を見つめて言った。
「…冬を連れて無事に戻ってこなきゃ、許さないから。」
「この場合は、善処ではないですね…。…はい、約束します。」
私が微笑みながら言うと、彼は腕をほどき私に向かって少しだけ微笑んだ。
「うん、待ってる。」
「ふふっ…はい、行ってきます。」
「…家康、貴様何故しのぶとそんなに仲を深めている。」
待ちきれなくて謙信様が横槍を入れてきた。佐助君が抑えていたけれどだめだったか。
「…邪魔すんな。」
「…斬るっ!」