第25章 血に抗え
ゴゥゥゥゥゥ…!!グシャァ…グシャァ…グシャァ!!
「ぎゃぁぁぁぁ!!!来るな…来るなぁぁ!!!」
「ひぃぃぃぃ…!!た、助けてくれぇぇぇぇ!!!」
ザシュッ…ゴゥゥゥゥゥ…!!
その光景は余りにも酷すぎるものだった。助けを求めながら泣き叫ぶように逃げ惑う敵の兵士たち。それを容赦無く鉄球を振りかざす冬に私は言葉を失った。
「…あはははっ!!はははっ…!!!」
それでもなお、虫を蹴散らすかの様に暴れ続ける冬。狂気の様な笑みを浮かべて、動きやすい様に作られた丈の短い着物には返り血がべっとりとついていた。私でさえもその光景を見て、吐き気がする。…だけど、今は止血を…!
「…はぁ、はぁ…っぐ…!!」
私は呼吸に力を入れて、背中から流れる血を止めた。それを見ていた、家康さんが目を見開く。
「…ちょっと、あんた…何やってっ?!」
「前に…お話したっ…呼吸法で…止血をしました。」
「…っ。…っなんて無茶なことやってんの!!」
家康さんは焦ったように私の顔を覗き込んできた。久しぶりに呼吸で止血をしたので時間がかかってしまった。本当に不甲斐ない。さっきのだって、庇わずに冬を抱えて避ける事だって出来たはずだ。それなのに、私はっ…。自分一人で思考回路がどんどん深くなっていく。そんな時だった。
「…しのぶっ!!何処を斬られた?!」
先程まで付近の敵を蹴散らしていた謙信様が此方に駆け寄ってきてくれた。どうやら、冬が敵の兵を圧倒しているみたいで謙信様はその場を抜け出す事が出来たらしい。…でも、いつまでも冬をあのままにさせるわけにはいかない。
「…背中ですが…大丈夫、です。止血はしましたから…。それより、あの子をっ…!」
私が今もなお暴れ続けている冬に視線を向ける。早く、止めないとっ…!!そんな感情を締めている私に謙信様が話した。
「…しのぶ、無理をするな…お前は女だ。いくらお前が強いからと言って、斬られてしまえば人は皆等しく弱い。…それから徳川家康…、お前に聞きたい事がある。」
そう言うと、謙信様は私を抱えている家康さんに真剣な眼差しを向けた。家康さんはその目に答えるように謙信様を見た。
「あの小娘、ただの人間では無かろう。…あれは鋼牙か?」
謙信様の核心を突いた質問にたじろぐもしっかりと返す彼。
「…ああ、彼女は鋼牙の生き残りで織田軍の仲間だ。」