第24章 鋼牙の本能
それを見ていた織田軍に緊張がはしる。一番近くで見ていた冬の顔が固まった。
ドサッ…!
「…っしのぶ!!!!」
「…っしのぶさんっ!!!」
丁度一緒に来ていた、家康さんと佐助君が私の下に駆け寄ってきた。彼らの顔が焦りを含んだものとなっている。私はその顔を見て、初めて分かった。…ああ、斬られたか。多分、痛みからして背中だ。早く、止血しなければ…。呼吸で血を止めなければ。私の感情はそれだけを締めていた。
「…お、おね、え様…?えっ…。…なんで…?」
私が斬られた瞬間を見たせいか冬は気が動転しているようだった。私は彼女に心配を掛けまいと微笑もうとした。
「…っ、冬。私は、大丈夫だから、早く…。」
「しのぶっ…何言ってんの!!早く止血しなきゃ!!」
「………誰だ…。」
地を這うような低い声にこの場にいる者がその声を発した方へ向く。
「……誰だ、この人に刃を向けたのは!!!」
冬は、私を静かに家康さんに預け、鉄球を力強く握った。彼女の殺気は先程とはまるで別人の様になっており、味方さえも身震いしてしまう様だった。私は彼女を止めなければと思い、彼女に手を伸ばしたがそれは届かなかった。
チャリっ…ザッ…!!!
目にも止まらぬ速さで移動した冬。標的は先程私を斬った男だった。男はその尋常ならざる殺気に冷や汗を流す。
「……………お前か。」
「…っひぃぃぃぃ!!!」
冬はその男に向けて鉄球を振り下ろした。その瞬間が余りにも短く、瞬き一つで終わってしまったかの様な感覚だった。しかし、私は嫌な予感が加速する。さっきから、冬の様子が可笑しい。動きが尋常じゃないほど加速しているが、その割には言葉数が少なくなっている。
「…ふ、ゆ…?」
私は返り血を浴びてもなお、無表情だった嘗ての彼女ではなく、狂気の様な笑顔を浮かべている彼女に戦慄する。…まさかっ、これが…。
「…っ獣化(じゅうか)って奴だよね、此れ。」
私を抱きしめていた、家康さんが冷や汗を流しながら現在の状況をみつめていた。それは余りにも一方的でまるで、一匹の巨大な化け物に挑むかのようなそんな気がした。
「…ふふっ…あはははは!!…ふふっ…!!」
狂ったように笑う冬に敵の兵はたじろぐ様に後退していく。それは得体のしれない化け物に恐怖を感じて怯えている目だった。例えて象VS蟻数万匹の状況だ。