第24章 鋼牙の本能
「…っち。佐助、退け。その小娘を斬る。」
謙信は自身の部下である佐助に苛立ちながらも呟いた。それは、もう一人の少女も同じだった。
「…お姉様のご友人だからといって、あなたに私を止める権利は無いと思うのですが。」
少女は睨むように自身の攻撃を止めた相手である、佐助を見つめる。その視線を受けた彼は少しだけ溜息をつきながらもこの二人を抑える為に彼女が来ることを願い、少々の時間稼ぎをする。
「どうどう、二人共落ち着いて下さい。謙信様はこの人が誰だか分からないから仕方無いと思いますが、冬さんあなたはしのぶさんから上杉軍に攻撃しないように言われている筈だ。…彼女との約束を破るのかい?」
そう言うと、少女もとい冬は取り乱し、手に持っていた鉄球を下ろした。どうやら、しのぶには怒られたくないらしい。渋々といったようだが納得したようだ。それを見ていた謙信が話に割り込んでくる。
「…詳しく説明しろ、佐助。……この小娘は何者だ?」
謙信は自分の疑問を解決するために、佐助に問いただした。それを聞いて、彼は淡々と答えた。
「彼女の名前は冬さんです。しのぶさんを随分と慕っているみたいだったので、恐らく…織田軍の関係者かと。」
佐助がそう言うと、謙信は少しだけ目を見開いたかと思うと小さく呟いた。
「…そうか、ならいい。……だが小娘、俺の邪魔はするな。」
その言い方に思う所があったのか冬は睨みながら謙信を見つめる。
「…それは、こっちが言いたいです。……ぼぉーっと突っ立ってないで下さいね?」
「…望むところだ。」
この険悪な雰囲気に佐助は頭痛がしながらもある人物の登場を待ちわびていた。
「…しのぶさん、早く来てくれ。俺じゃ止められないかもしれない…。」
場所は変わって、岐阜城内。その場は走る音の耐えない場所となっていたがもうそろそろ治療が全員終わりそうな事に安堵していた少女がいた。
「…はあ、漸く一段落つきそうですね。」
少女もといしのぶが溜息をつきながら呟くと、周りに居た兵士の何人かが答えた。
「はい、本当に姫様には感謝しきれません。…このような場所においでになって下さり、我々の手当もしていだだけるなんて感無量です!」
「本当にありがとうございます、姫様!!」
皆涙ながらに彼女に頭を下げた。それを見ていた彼女は柔らかく微笑んだ。