第24章 鋼牙の本能
辺りは謙信様の記述にある停戦協定という言葉に騒然となっていた。それは、私達も同じだった。
「佐助君、停戦協定の詳しい内容について教えて下さい。…そちらの要求する条件についても。」
私は佐助君の方を向いて話した。それを見た彼は頷いて話し出す。
「…流石、しのぶさんだ。此方の条件についても説明するよ。今回の停戦協定を結ぶ代わりに此方が出した条件は三つだ。一つ目は、織田軍の持つ甲斐の国の返還。此れは信玄様がお望みになった事だ。そして二つ目は、しのぶさんの経営している蝶屋敷への立ち入りの自由。つまり、安土城下の出入りの自由だ。そして三つ目は、これもしのぶさんに関係している。…春日山城にしのぶさんを一週間滞在させる事。」
それを聞いて、なんか私に関する内容が多過ぎないかと思ったが協定がそれで結ばれるなら仕方ないと考えた。最後に至ってはそちらに利益がありますか?…と思ったが取り敢えず信長様の返答を聞こうとすると遮られた。
「はぁ…?!…お姉様、このような野蛮な連中の相手をしなくてもいいです!!お姉様が一週間、春日山城に行くなんて耐えられません!!」
冬が泣き叫ぶように、蹲るのを私は宥めていると佐助君が話しだした。
「…そうなんだ、そこについての問題なんだ…。実は先日、信長様に信玄様と謙信様がお会いになって話を進めていたんだけれど…。その、話がまとまらなくて…。特に、三つ目の条件に織田軍の皆さんが反対されて…。」
私はそれを聞いて、少し呆れてしまったけれど面白くて笑ってしまった。それを見て佐助君も笑う。
「ふふっ…皆さんが…。そうですか…。」
「ああ、信長様なんか…『俺の持ち物に手を出すとはどういう了見だ。』って言われて一触即発の雰囲気だったよ。」
それを聞いて私はまた笑ってしまったが取り敢えず話を収集させないといけないと思い、佐助君に話しかけた。
「…それで、結局どうなったのですか?」
「取り敢えず、一週間は安土の診療所が困るし安土城の姫が長い間敵国にいるのも考えものだから一週間ではなく、四日間になったよ。…でも、やっぱり安土の皆さんは気に食わなかったみたいだけれど…。」
「…もう、皆さんたら…。はあ、冷静な判断が出来ないのは考えものですね。」
「…そういう事じゃないと思うな。…しのぶさんの事だから皆さん、他に取られないように必死なんだよ。」