第24章 鋼牙の本能
突然の謙信様の名前に城内には困惑が広まる。
「なっ…越後の龍が生きていたなんて…!」
兵士の方々がザワザワと騒ぐ。どうやら、変な方向にとってしまったみたいで、この状況で軍神の横槍かっと言う様に騒ぎになっている。そんな彼らを宥めるように佐助君は話しだした。
「皆さん、突然の事に困惑されるのも分かります。でも、今は時間がありません。まずは春日山城の城主からの書状を此方に預かっています。まずは此方をお読み下さい。」
そう言うと佐助君は懐からその書状を取り出し、今の織田軍の代表である、私に渡してくれた。私はその書状を開いて読み始める。横から冬も覗き込んでいた。
『…しのぶ久しぶりだな、息災か?約数日ぶりだがお前と会った事が遠い昔の事のように感じている。信玄がまた、お前の蝶屋敷へ足を運びたいと言っていた。さて、そんな前置きは置いておいて本題だ。俺たち春日山城の者は此度の戦に関しては傍観をするつもりでいた。だが、お前が参戦するとすれば話は別だ。お前は信玄の命の恩人でもある。…そして、今度行うしゅじゅつとやらを信玄にしてもらうと約束しているはずだ。だが、そちらの戦況は佐助からの情報でどうも著しくないと見た。このままでは信玄のしゅじゅつが出来ないと思われる。そこで、佐助からの提案によりこの場に置いてのみ織田軍に停戦協定を申し込む事にした。信玄にとっては苦渋の決断だったが、幸村の説得に渋々といった所だが納得したようだ。全く、甘いやつだ。…それから、しのぶこの文を読んでいるということは佐助がそちらにいるという事だろう。詳しい協定の内容は佐助に聞け。 上杉謙信 』
「…停戦協定っ?!」
私は驚きで思わず叫んでしまった。隣の冬からも困惑の表情が見られる。そんな冬から質問があった。
「お姉様、此処に記されているしゅじゅつとは一体何なのですか?」
不思議そうに聞く冬に、私はなるべく不審にならないように誤魔化した。
「…ふふっ、信玄様は甘味がとてもお好きなそうでその甘味の調理方法よ。」
私がニッコリと答えると、彼女は納得したようにそうですかと笑顔で答えた。それを見ていた佐助くんが此方に寄って、ヒソヒソ話をした。
「…(ボソッ)信玄様の病気の事言わないでくれてありがとう。」
「…(ボソッ)助けて頂くのですから、これ位どうって事はありません。」