第23章 銀の祝福
「…信長様も条件を出した人がいたと言っていました。あなただったんですね。」
「ふふっ…私達は似たもの同士ですよ。…さて、私はあなたを死なせたくありません。此れは私の自己満足ですが戦後に安土城に来ませんか?」
そう言って彼女に片手を差し出すと彼女は弾かれたように泣き出した。
「…そんな…ずるい質問の仕方が…ありますか?詐欺師でも…しませんよ。罠だ…とわかって…飛びこむ…人なんかいま…せんよ。」
泣きながらも話す彼女に私は笑いかける。
「ふふっ…罠に見えますか?」
「…いいえ、本当に…意地が悪い…方ですね。しのぶ様は。」
「…そうでしょう?私ずる賢い女なんです。」
「…ふふっ。……ふふふっ。」
私がそう言って片目を瞑ると彼女は漸く笑顔を見せてくれた。そして、私の手を握り返した。私は泣き崩れる彼女の頭を泣き止むまで撫で続けていた。天幕の間から見える月は、それを心から祝福しているように彼女を照らし続けていた。
「しのぶ様、おはようございます。」
朝、目を冷まして支度をしてから天幕を出ると銀髪の少女、冬は私の姿を見た途端に笑顔になって走って駆け寄ってきた。私は少し驚いたが笑顔で挨拶をした。
「おはようございます、冬さん。随分と早起きなんですね。」
そう言うと、彼女は少し照れ顔になって話しだした。
「しのぶ様に美味しい料理を食べてもらいたかったので、つい…。あっ、それから私の事は呼び捨てで呼んでください。それに敬語も入りませんよ。」
初めての彼女のお願いに戸惑いつつも喜んで許可した。彼女は嬉しそうな顔をしたあと炊き出しに戻っていった。その様子を遠くから見ていた家康さんが近づいてきた。
「おはよ。…なんか冬の態度が豹変していて皆戸惑ってるんだけれど、大丈夫な訳?」
「おはようございます。…多分大丈夫だと思いますよ。あれが本来の彼女だと思います。今まで、ずっと抑え込んでたみたいですから。」
私が笑いながら答えると、彼は少しだけ納得したような顔をした。
「…やっぱり、あんたの仕業か。」
「私のせいみたいに言わないでくれません?」
また、家康さんと喧嘩しそうになっていると、冬が間に入ってきた。
「…しのぶ様を悪く言わないでください!家康様でも許しません!」
何故か私の肩を持ってくれる冬に呆気にとられながらも、この状況を楽しんだ私だった。