第23章 銀の祝福
「…でも、私は一族の落ちこぼれで…。兄の代わりにもなれない私なんか…。」
「それこそあなたの代わりもいません。あなたはすごい人です。それをもっと自覚するべきです。」
「…でも、私はとても弱くて脆いです。ですからきっと寄りかかってしまいますよ?」
「…それでもいいのでは?」
「…えっ?」
弾かれたように顔を上げる彼女に私は微笑んだ。
「…誰にも頼らないで生きていける人はこの世にいません。それに、私だって一人で生きているわけではないです。今日だってあなたに、助けられました。野盗だって退治してくれましたし、今日のあなたの手料理は本当に美味しかったんですから。」
「…それは、兄よりも時間が掛かってしまいましたし…。元はといえば料理だって兄に…。」
「そう言われても、私はあなたのお兄さんを知りません。…私が知っているのはあなたがとても素敵な人だと言うことです。」
彼女は私を真っ直ぐに見つめた。
「あなたは真面目で、しっかり者で少しだけ感情の起伏が薄いですがそれを補えるほどの有能さがあります。もっと、自信を持ってください。…そういえば、こんな話を聞いたことがありますか?西洋では出産祝いに赤子に銀の匙を与えるそうです。それは赤子の健やかな成長と魔除け、そして幸福を願う物だそうです。…銀は幸せの象徴です。生まれたばかりの赤子に贈られる銀が金に劣る訳がありません。」
「…でも、兄のいらない部分が私で…。」
「そう思っているのはあなただけですよ。あなたはもう十分過ぎるくらい有能です。」
「……っ!」
「だからそんなつまらなそうな顔をするよりも笑ってください。私の笑顔は真似してほしくはありませんが、ずっと無表情だとこっちが悲しいんですから。…笑いながら明日って未来の話をしましょう。死ぬなんて明日でも出来ますし、今日でも出来ます。だから、あなたが死ぬのは布団の上です。それ以外は私がさせませんから。」
私がニッコリと笑うと表情が変わって慌てふためく彼女。
「…えっ、それは勝手すぎます!」
「ええ、勝手です。あなたが死のうとするのも勝手ですし。それを止めようとすることも勝手です。」
「…横暴すぎますよ。」
「…ふふっ、そうです。私は初対面の国の主にさえ条件を出した女です。…あなたの世話をするのは私ですから。私は一度決めた事は曲げない主義なので。」