第8章 忠臣と同盟国の領主
あっ、そういえば忘れてました!あの時の少年!うっかりしていて、名前を聞いていませんでした。私は後ろの方を向き、一番後ろで馬に乗っている少年に声を掛けた。
「そういえば、そこの少年の名前を聞いていませんでしたね。名前は何というのですか?」
ほほえみながら、少年に問いかけた。すると、少年はみるみる顔を真っ赤にさせた。…なんででしょう?
「…っは!もっも、申し訳ありません!一番最初にあなたにお会いした私があなたに自己紹介していないなんて…。後で、幾らでもお詫びはします!」
…いや、結構ですけれど。いらないんでそういうの。
私が微妙な顔をしていると、真後ろから助け舟が来た。
「炭明、今は詫びのことを話しているのではない、貴様の名前についてしのぶは聞いているのだ。詫びの件なら、安土に着き次第幾らでも話せ。」
信長様…って、ちょっと?!それ、何の解決にもなってませんよね!私は信長様に向かって恨みがましい視線を送ると、信長様はニヤリと笑うだけだった。…何か負けた気分です。
「こらっ、しのぶ!信長様を睨むな!」
「っ…此れは不可抗力ですっ!」
「…ふかこうりょく?が何かわからないが、兎に角睨むな!」
「あぁ…面倒くさい人ですね!あなたは!!」
秀吉さんはさっきよりも随分と、雰囲気が柔らかくなったが、まだ警戒は解いてくれないみたいだ。…地道にコツコツですね、本当に。
「あの…しのぶ様。」
後ろから、少し戸惑った声が聞こえた。そうだった、そもそも彼に声を掛けたのだ。
「ごっほんっ!……ごめんなさい、少年。…それではあなたの名前を、教えてくれますか?」
「はいっ、俺の名前は竈門炭明です!よろしくお願いします、しのぶ様!」
…竈門ってやっぱり……。親戚?…でしょうか?似ていますが、彼のように痣は出ていませんね。……今度それとなく聞いてみますか。ですが、気になったことがもう一つ…。
「…あの。何で【しのぶ様】なんですか?私は別に様をつける様な偉い人ではなくて…」
「それは違うぞ、しのぶ。」
突然、低い声に遮られた私の声。上から聞こえるってことはまさか…。
「…それは、どういう意味ですか信長様?」
遮った本人である信長様に訪ねた。
「そのままの意味だ。わからぬか?先程言ったであろう。貴様を天下人の女にすると。」
…そういえば、そんなことを言ってやがりましたね、この人…。