第1章 ~始まり~
「ふうん。れいは....玲葉か、同業者にしては聞いたことのない名だな」
自分の知り合いにいた名前か少しの間考えてはみるけど、全く聞いたことのない名前だ。ということは同業者ではないのか?
それにしてもさっきの面白かったなぁ。
お淑やかに佇んで花でも持っていそうなお嬢さんなのにあんなにあっさり自分の二回りはでかい男を倒してしまうのだから。
最初は柄の悪そうな男が女性を尾行しているのが見えて、助けに入ろうか悩んでいるときだった。
普通の女性ならつけられているのに気づいたら顔を青ざめて逃げ出そうとするはず。
しかし、その女性は違った。冷静に騒ぎにならないようにと路地裏に男を誘い込んでいたのだ。
その女の表情を見てぞくりと背筋に冷たいものが走った。
笑っていたのだ……馬鹿な奴だと蜘蛛の巣に引っかかった哀れな虫を見るようなそんな冷たい目で。
ただのお嬢さんがそんな目をできるわけがない。その表情に興味が湧いて、名乗るつもりじゃない本名を名乗ってしまったのだ。
でも、また近いうちに彼女とは会えるようなそんな予感がした。
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遅い。もう夜だよ、暗くなる前に帰るって白雪は言っていたのに。
あの子は約束を破るような子じゃない。
長い間一緒にいたわけじゃないけど優しくて素直な女の子だってわかったから。
「人攫いだっているからあの子の髪色のこともあるし…」
こんな暗い中じゃ、もう馬車は出してくれないだろう。馬を持っていたらすぐにコトの山まで向かっていたのに。
港町で宿をとっていると信じるしかない。
どうか…無事でいてください。