第1章 ~始まり~
器用に男の手を後ろで自力ではほどけないように結んでからふと顔を上げて呟いた。
「ねぇ。いつまで見てるの?別にこれ見世物じゃないんだけど」
「......よくわかったね。
いやぁ、お見事!あんなに簡単に倒してしまうとは途中で見かけて助太刀に入ろうかと今か今かと待っていたのに
どうやらお嬢さんには必要ないみたいだね」
「よく言うよ。お前、私が路地裏に入り込んだ時ついてきただろう」
買い物の途中で尾行されていることには気づいていた。尾行してくるのが二人に増えたとき、挟み撃ちにならないかと少し不安にはなったが、視線の一つはただ様子をうかがっているだけのように思えたから手を出さなかっただけだ。
「へぇ……気づいてたんだ。俺、気配を消すのは得意なのにバレルなんてお嬢さんはもしかして同業者?」
「さてね、それじゃ。私はこいつを引き渡してくるからもういくよ。あなたの相手をする時間はないから」
「あ、待ってください。俺、オビっていいます。お嬢さんは?」
「もう会うこともないでしょ。そもそもなんで名乗る必要があるの?」
面倒くさいのに絡まれた。そんな感情が完全に表情に出ていたと思う。
こんな顔、白雪には見せられないな。
あの子は私のことを素直に慕ってくれているんだから。
にこにこと胡散臭い表情で笑っている男に眉を顰めるが、引き下がらない男に諦めてため息交じりに囁くように告げた。
「…………玲葉」