第2章 ~宮廷薬剤師見習い~
……ガラクさん。困らせてしまったかな。
白雪に持っていくっていうあの本。ちらりと見えたけど第二王子にどんな薬を処方したのかを記す薬歴のように見えた。一瞬だったけど薬歴の文字とゼンの名前だけ見えたから恐らく当たっているはず。
どこの王族も暗殺を防ぐために少しでも毒に慣らして中毒症状に少しでも免疫を付けるために少しずつ毒を投与される。
毒を飲んで倒れた経験のある私もあれは正直きつい。私はシチューに入ったきのこひとかけらだったが、全身を刺すような痛みと吐き気。
リストを確認しながら白雪にタオル差し入れたほうがいいかなとぼんやりと考える。きっと白雪泣いちゃうだろうな。
眩しいくらい素直で優しい子。私と違って触れたら壊れてしまいそうなくらい…無垢で穢れのない真っすぐなあの子。
あぁ…早く白雪に会いたい。
手に焼きつく赤黒い色じゃなくあのりんごのような色をまた見たくなってしまった。
利用…するためだったのになぁ。こんなに依存するためにあったんじゃなかったのに。本当にあの子は不思議な子だな。
薬研でごりごりと薬草をすりつぶしながら思った。
***
「よーし!これで、終わり…かな」
うーんと背伸びをして、酷使した腕をほぐす。薬草棚の薬草の位置も細かく紙に記しておいたのでこれで早く覚えられるはずだ。
「おーお疲れ。今日はもう仕事ないから上がっていいよ」
「!わかりました。お疲れさまでした。薬室長、明日もよろしくお願いします」
「玲葉くんは固いなぁ~。白雪くんに会うならさっき中庭にいるのを見かけたわよ。今ならまだ会えると思うよ」
「本当ですか?!ありがとうございます。それではこれで失礼いたします」
ぺこりと頭を下げ、タオルを片手に退出する後ろ姿をガラクは手を振りながらにこにこと見送り、ぱたりと扉が閉まった瞬間その笑みを消した。
あの子…最後まで迷子の子どものような表情をしていた。
一緒に研究していた仲だったからルーテの性格はよくわかっている。真っすぐで自分でこれだと決めた場所には突っ走るあの子は手紙に優しくて優秀な弟子ができたと報告してきた。
なにより玲葉は自分で殺したのだと泣きそうな顔で自分を責めている。
「これから大変なことが起きそうね…」
それも悪くないと思っているけれど、それが悪い結果をもたらさないことを祈るばかりだ。