第18章 雲間から望む
「…そっか。謙信様から連絡来たんだ。」
『いや、まだ。でも、もう安土五武将も揃ったし。
さんのリハビリも家康公と話したしね。
俺はいつでも来れるから。』
「天井裏から?正面から?」
『腕試しに天井裏から。』
「ふふっ、また怒られちゃうよ?」
『今度は気配を消して、どれだけバレないかやってみる。』
「本当に、佐助くんは忍者だね。
…ねぇ、聞いてもいい?」
『なに?』
「佐助くんは、…後悔してないの?
帰らなかったこと。」
『…。』
佐助は、眼鏡をくいっと上げると、立ち上がり襖を開けた。昼下がり、残暑の陽射しが部屋に差し込み影を作る。
『時々、恋しくはなる。』
「え、。」
『フッとしたときに、現代の歌を口ずさんでいたり、夢に両親や友達が出てきた時に。』
「帰りたくなる?」
『…あぁ、懐かしいなって思うだけにしてる。謙信様や信玄様、幸と離れる事を考えたら、そっちの方が辛いから。』
「そっか。」
『さんは?帰りたくなる?』
「…祝言の頃は、帰りたかった、かな。お母さんに会いたくて。」
『うん。』
「でも、皆が支えてくれて側にいてくれて。頑張ろうって思ったの。
そして、怪我をして眠って。夢の中で、迷って辿り着いたのも安土城でね。
目が覚めて。
みんながいて。あぁ、私の世界ってここなんだって思ったの。だから、私も恋しくはなるかもしれないけど、帰りたくはない、かな。」
『そっか。…ってか、今帰っちゃったら大変でしょ。』
「だね。…ところで、佐助くんの口ずさむ歌って?」
『え、あぁ。あの国民的二人組ロックグループだよ。』
「あぁ、ボーカルとベースの?」
『そう。』
「私も好き! バラードもいいよね。あのドラマの主題歌とか。」
『歌える?』
「えぇ? まぁ、歌えるけど。一緒に歌ってよ?」
佐助とは目を合わせ、一瞬の沈黙の後、歌い出す。
聞き慣れない調律の歌声は、広間や厨、針子部屋へ響き渡る。
軍議は、一時中断し武将達は目を瞑り、誰もが歌声の主の元気な姿に安堵し耳を傾けた。
『さん、上手いね。』
「懐メロ嬉しくて声が大きくなっちゃったね。恥ずかしい。」
『次は何にする?ストレス発散も、回復に効果アリだから。』
「じゃあ、これ。歌える?」