第17章 嘘のような奇跡
信長は、溢れ出すの涙を親指で拭うと、優しく声をかけた。
『…わかるな。』
「…、はい。ごめんなさい。信長様。家康、みんな。ごめんなさい。」
『うん。ほら、傷、開いてないか診るよ。』
信長に叱られたの姿に、怒る気が失せた家康は、ゆっくり座りながら咲と共にを褥に寝かしつけた。
信長の右手は、の左手を繋ぐ。
「信長様…?」
『なんだ?』
「あやつらって…」
その場の誰もが気になっていて聞けない事を、は尋ねた。
家康は手を止め、政宗と三成、佐助が信長に視線を送る。
『深紅の瞳に茶色の髪の毛、覚えはあるか?
貴様のところに行った後、俺のところに来たと話していた。』
「うっ、ふぁっ。」
は大粒の涙を流し始め、呟いた。
「やっぱり、あの子は…」
『俺を父上と呼び、貴様を母上と呼んでいた。』
【父上、母上】の言葉に周りの武将達は目を合わせる。
『貴様は、危なかったと言っていたぞ。あやつが貴様を繋ぎ止めたとな。』
「…どんどん増えていく水の中から、助けてくれました。」
処置を終えた家康を含め、武将達は静かに話を聞く。
『…俺のところには、女子もいたぞ。貴様に似ていた。』
「え?」
『早く安土に帰り、母上を助ける。と約束をした。
…俺達は、子宝に恵まれるようだぞ。
それには貴様が必要だ。
もう、無理はするなよ。あやつらの為に。』
「はい。」
は、涙を流しながら微笑み、頷いた。
信長もまた優しく微笑むと、の髪を撫でた。
『…だが、貴様を一人にはもうさせられぬな。
明日には織田軍が揃う。貴様の側には必ず監視をつける。』
「え?監視?…もう無理しませんよ?」
『ダメだ。』
信長は、また般若のような表情でを睨み付けた。その表情の変化に、周りの武将達は苦笑いを始める。
『信長様、監視とは?』
政宗が、にやりと笑いながら信長に問う。
『体は家康と佐助、食事は政宗、身の回りの世話は帰ってくる秀吉と咲、安静を保つ監視は三成と光秀。
夜は、俺。
全員で貴様を監視する。』
『すげぇ、監視だぜ。』
政宗が高笑いを始めた。