第17章 嘘のような奇跡
夕焼けが、信長の踏み机を照らす。
厨からは、政宗が熱心に作っただろう食事の匂いが、風に乗った。
「ふぅ。喉乾いたなぁ。」
一眠りして目覚めたは、右手側に盆に乗った水差しを見つけた。
(あれなら、届くかな。)
息を整えた後、一人で、左手を支点に体を起き上がらせようとした。
「うっ、痛てて…。おわぁっ。」
は、右肩の痛みだけでなく左腕の筋肉痛が襲う。そして、すぐに貧血のくらりとした眩暈が襲ってきた。
ガチャン。
上半身が右に向かってうつ伏せに倒れるのと同時に、水差しが倒れ湯飲み茶碗とぶつかる。
『様、お目覚めですか?
…っ!様!』
夕げ前に、の体を拭こうと桶の水を変えて戻ってきた、咲の大きな声が城内に響く。
隣の部屋で踏み机を並べ、政務をしていた信長と三成、同じ部屋でのリハビリを考えていた家康と佐助が顔を見合せて立ち上がり、隣のの部屋に向かった。
政宗もまた、の夕げの味付けを確認するために、厨から家康の部屋に向かっていた途中であった。
咲の声を聞き、バタバタと走り出す。
『!』
『何があった!』
『大丈夫か! どうした?』
鬼気迫る信長と家康、後から追い掛けてきた政宗の声が、また城内に響いた。
『何をされていたのですか!』
「えへへ、ごめんね。喉乾いて、お水欲しくて。自分で出来るかなぁって思ったんだけど…。」
『馬鹿者っ!』
『なにやってんの?!』
慌てた咲に抱き起こされたは、般若のような信長と家康の顔に凍りついた。
「…あ、ごめん、なさい。喉が…」
『馬鹿者がぁ!』
信長の声が城内に響きわたり、隣に立っていた家康と駆け付けた三成、佐助、政宗が余りの気迫に後ずさりを始める。
信長は、の顔を両手で挟み自身に向かせると震えるように叫んだ。
『家康が、…政宗、三成、秀吉、光秀が。どれだけ心配したと思っている!俺が…、どんな気持ちだったか!
貴様が血飛沫をあげて倒れていく、あの姿…
忘れたくても忘れられんのだぞっ!
…貴様に何かあれば、あやつらは産まれんのだ。』
最後の一言に、は目を見開いた。