第2章 歌声と噂
( ?! )
はもう一度板張りを踏みしめた。
ギィ。
(聞こえる!)
は、天守の欄干から木々や馬屋、城使いの家臣達を見た。
ざわざわと木々が揺らめき馬の鳴き声や家臣達の声が聞こえる。それは、なんの違和感もなかった。
(治った…、のかな。疲れたんだな。)
一安心したは、羽織を着ると夜着から小袖に着替えるために天守を出た。
天守へと続く廊下を出て自室に戻ろうとすると、背中からからかう声が聞こえた。
『遅いお目覚めだな。姫君。』
「みっ、光秀さん!」
『ぐっすり眠れたか? 小鳥のような囀ずりの歌声が聞こえたぞ?』
「えっ、ごめんなさい!」
『いや、むさ苦しい広間で政務中、信長様や秀吉、三成も俺もお前の腑抜けた歌声で癒された。』
「え、そんな…」
『『散々啼かして起きれなくしたが、目覚めは良かったようだ』と仰っていたぞ?』
「なっ! 信長様…!」
『ふっ。着替えるのだろう? 早くしろ、寝坊助姫。そろそろ昼だ。』
光秀は、ゆっくり近付くと優しくの頬を撫で踵を返してまた広間へ戻って行った。
雲間から初夏のからりとした陽射しが顔を出す。
は、煌めく光秀の羽織を眺めると優しく微笑んだ後、急いで自室に向かった。
の自室では、咲が微笑んで座しており、すぐに遅くなった朝の支度を始めた。
※
『さっき歌っていたのは、先の世の歌か?』
政務をしていた広間が片付けられ、温かな昼の膳を囲む。
上座の信長の隣に座っていたは、信長の右隣で座る秀吉に声をかけられた。
「あ、うん。空がすごく蒼くてぼぉーっとしてたら、好きな歌、歌ってた。」
『様。南蛮の言葉も多い歌でしたが、とても癒されました。』
「ありがと。三成くん。」
『貴様の歌声で、こやつらの士気が上がった。誉めてやる。』
「ありがとうございます。」
『…それにしても、。余り箸が進んでないな。』
『まだ寝ぼけてるのか?』
「光秀さん、もう起きてます! 秀吉さん、大丈夫。
起きてばっかりだからゆっくり食べてるの。」
『ん、そうか。無理するなよ、な。』
信長をはじめ武将達は、の姿を微笑ましく眺めていた。