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暁の契りと桃色の在り処 ー音ー

第2章 歌声と噂


「ふぅ。ご馳走様でした。」

お茶を一口含むと、はお膳を下げた。
隣で一部始終を眺めていた信長は、に声をかけた。

『あぁ。。体調はどうだ?』

「え?」

『いつもよりゆっくり食べていたからな。暑さにでもやられたか?』

「…そうかもしれません。少し自室で休んでいます。」

『あぁ、今日の書簡整理も、もう終わる。秀吉と武器商の視察の話を詰めたら終いだ。それまで、ゆっくりしていろ。』

「はい。」

は、信長が差し出した手を握り立ち上がろうとした。


ーくらり。


「あっ。」

の視界が反転するようで、体も傾いてしまう。

『おい!』

『『!』』

『様!』

は、信長に抱き留められると苦しそうに目を瞑った。

『どうした? おい、医者だ!』

「だ、大丈夫です。信長様。ただの立ち眩みですから。もうすぐ家康が来るでしょう。不調が続けば、家康に診てもらいます。」

信長は、をぐっと引き寄せると横抱きにして歩き出した。

『咲!』

『ここに。』

『は天守に連れていく。我が政務が終わるまで側についていろ。』

『かしこまりました。』

「だ、大丈夫ですって!」

『よく見れば顔色も良くないではないか。天守で寝ていろ。秀吉、家康に登場を早めるよう早馬を遅れ。の体調が心配だ。』

『御意!』

信長は、秀吉の返事を待たずに天守にかけ上がった。

の少しの変化にも気付き護ろうとする主君の変わり様を、秀吉、三成、光秀は優しく見つめていた。




『何かあれば、すぐに知らせろ。』

そう言うと信長は天守を後にした。
は、信長と夜を過ごす褥に寝かされ目を瞑る。

(また、耳鳴りや聞こえなくなったら、どうしよう。)

は不安から眠ることができず体を起こした。




の一連の不調は、日を待たずに城内の噂となり、尾ひれがつき次第に【懐妊】の噂に変わっていった。










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