第2章 歌声と噂
「ふぅ。ご馳走様でした。」
お茶を一口含むと、はお膳を下げた。
隣で一部始終を眺めていた信長は、に声をかけた。
『あぁ。。体調はどうだ?』
「え?」
『いつもよりゆっくり食べていたからな。暑さにでもやられたか?』
「…そうかもしれません。少し自室で休んでいます。」
『あぁ、今日の書簡整理も、もう終わる。秀吉と武器商の視察の話を詰めたら終いだ。それまで、ゆっくりしていろ。』
「はい。」
は、信長が差し出した手を握り立ち上がろうとした。
ーくらり。
「あっ。」
の視界が反転するようで、体も傾いてしまう。
『おい!』
『『!』』
『様!』
は、信長に抱き留められると苦しそうに目を瞑った。
『どうした? おい、医者だ!』
「だ、大丈夫です。信長様。ただの立ち眩みですから。もうすぐ家康が来るでしょう。不調が続けば、家康に診てもらいます。」
信長は、をぐっと引き寄せると横抱きにして歩き出した。
『咲!』
『ここに。』
『は天守に連れていく。我が政務が終わるまで側についていろ。』
『かしこまりました。』
「だ、大丈夫ですって!」
『よく見れば顔色も良くないではないか。天守で寝ていろ。秀吉、家康に登場を早めるよう早馬を遅れ。の体調が心配だ。』
『御意!』
信長は、秀吉の返事を待たずに天守にかけ上がった。
の少しの変化にも気付き護ろうとする主君の変わり様を、秀吉、三成、光秀は優しく見つめていた。
※
『何かあれば、すぐに知らせろ。』
そう言うと信長は天守を後にした。
は、信長と夜を過ごす褥に寝かされ目を瞑る。
(また、耳鳴りや聞こえなくなったら、どうしよう。)
は不安から眠ることができず体を起こした。
※
の一連の不調は、日を待たずに城内の噂となり、尾ひれがつき次第に【懐妊】の噂に変わっていった。