第16章 ただいま
「のぶながさま!」
『!こっちだ!』
「のぶなが、さま!」
左手で舞い上がる花びらを掴む。
勢いよく風が吹き込むと、花びらがが天守の襖の外に出ていった。
『!』
怠くて力が入らない足を動かす。
私は、花びらの後を追いかけた。
先程と比べようのない位、少ない階段。
普段と変わらない廊下。
桜の花びらが、不自然に廊下を舞うように進んでいく。
導かれるように
私は走った。
声が、聞こえる。
『こっちだ!戻ってこい!』
『!』
『そうだ、こっちだ!』
ふわりふわりと舞い上がる花びらは
私の部屋で止まっていた。
『!』
声が聞こえる。
でも、…怖い。
また、誰もいなかったら。
寒気がする。
あの水の中にいたような、ぞわりとした
寒気が。
『戻ってこい!』
意を決して襖を開ける。
見えたのは
信長様に抱かれて
左手を握られて
家康と政宗、三成くんと咲、
何故か佐助くんに見守られた
横たわる私の姿だった。
【息を吸って!】
あの子の声がした。
【息を思いっきり吸って!】
うん。わかった。
息を吸い込むと
花びらが舞い上がった。
吐き出す息と同時に
とん!
…と、背中を押された。
自分が自分に吸い込まれるような感覚がした。
そして背中側からは
あの子の声がした。
【…手のかかる、…母上だ。】
※
とくとくとく
生きている音がする。
『!』
愛する人が、聞いたことのない大声で
私を呼ぶ。
引き寄せられるように
瞼を動かした。
(やっと、…あえた。)
嬉しかった。
『、わかるか?』
わかるよ。
「…が、…ま。」
掠れた声、うまく言えない。
笑いたいのに
大丈夫って伝えたいのに。
『!』
あぁ、懐かしい香りがする。
とくとくとく
貴方の生きている音がする。
『『!』』
『さまぁ!』
声が聞こえる。
家康、政宗、三成くんと佐助くん。
佐助くん、どうしたの?
左手が暖かい。
…右手も暖かい。
みんな
ただいま。
ありがとう。