第15章 おかえり
上杉の傷薬の効果と家康の化膿止めにより、腫れも赤みも引いていた。
清潔な水で、洗い流すと新しい軟膏を塗りさらしを当てる。
家康の手技も手慣れてきているのが、自分でもよくわかった。
『…こんなの慣れたくないけど。』
ぼそりと呟いた小言を、佐助が漏らさずに聞く。
『家康公の独り言、頂きました。』
『…煩い。』
限られた人数で過ごす城内の時間はゆっくりと流れていった。
※
昼げの握り飯を、三人が少しだけ距離を空けて縁側で食べ終わった頃。
バタバタバタ!
『三成様!!』
家臣達が慌ただしくなり始めた。
『どうしたのですか?』
『はっ、先ほど国境より連絡が。信長様と政宗様、精鋭数名がこちらに向かっているそうです。』
『『『 え? 』』』
『早くない? …文が届いたのが昨日。明日つく予定じゃないの?』
『信長様と政宗様と数名?』
『…随分と単騎ですね。』
『国境を越えたなら…』
ガタガタ、バタバタ
『お、お早いお着きで!』
『お迎えもせず…』
家臣たちの焦る声が聞こえる。
『家康!三成!』
『…あぁ、帰ってきた。』
『お迎えに急いで行かなければ!』
『いいよ、こっち来るでしょ。待ってたら?』
城内が急に騒がしくなり始めた。
『どうしたんですか?…帰城は明日なんじゃ?』
『なんでも、【が目覚める】らしい。』
『はぁ?政宗さん、誰がそんなことを?』
『知らねぇが、文を送った後に急に仰ってな。夜明けと共に支度をして早駆けしてきたんだ。
信長様の早駆けすげぇぞ。俺も着いていくのに必死だったぜ。』
『政宗さんが必死の早駆けって、どんだけですか。』
ガチャガチャ。ガチャン。
甲冑がぶつかる音がする。
信長の歩く廊下には外していく鎧が点々と転がっていた。
『家康。』
『おかえりなさい。勝利、おめでとうございます。』
『…は?』
『先程から意識が浮上したり眠ったりを繰り返しています。動かせる手を動かしたり。』
『やはりか。』
『…やはり?何故こんなに早く戻られたのですか?』
『早く戻って何か悪いのか?』
『い、いえ。』
信長の後ろから籠に外していく鎧を集めながら追いかけてきた三成と佐助が、信長に声をかける。