第15章 おかえり
『はい。やはり敵方は統率が取れず、総崩れだったようです。三日後には帰城を始めると。』
『西からここまで、急いで一日半。こっちに着くのは早くて明後日か。』
『やはり早かったですね。』
『総崩れ、政宗さんが楽しめなかった感じかな。』
『上杉の小競り合いも終結したと連絡がありました。』
『じゃあ、あんたは帰るの?』
『帰城を確認してからにします。』
『あっそ。…。帰ってくるよ。良かったね。…!!』
家康は右肩を撫でながら優しく呟いた。
すると、それに応えるようにの目尻から一筋の涙が零れた。
『!聞こえてるの?』
いつの間にか魘されることもなく穏やかな寝息に変わっていた。
『家康公、もう少しなんじゃないですか? いい方向に向いてるんじゃないかと。』
『うん。』
西陽が開いた襖から差し込む。
その陽射しはまるで、暗闇で包まれた安土の出口のようで、浴びれば暖かい。
縁側には小さな虹が出来ていた。
※
翌日。
『家康様!様が!』
咲の声が朝の陽射しと共に城内に広がった。
『どうしたの?』
傷薬の調合を止めの部屋に駆け寄ると、咲が口を押さえながら涙目での左手を握っている。
『!?なに、どうしたの?』
うっすらと目を開けたは、空を探るように左手を動かしていた。
『三成!佐助!…咲、呼んできて!
、聞こえてる?わかる?』
瞬く間に、二つの足音が廊下に響いた。
『意識が?』
『様?』
『…、意識が浮上したり眠ったりを繰り返してる。深い眠りじゃないんだけど…』
『呼び掛けましょう!』
『あぁ。』
『さん、さん!』
咲がの左手を握り、佐助がその隣で声をかける。
『政務はこちらでやります。』
三成は文机を縁側近くに置くと、この度の戦の後方支援の処理を始めた。
『水、汲んでくる。』
家康は咲と佐助に任せ、部屋を出た。
季節は初夏から夏に変わっていた。
照りつける太陽で、じっとりと汗ばむ。
『暑い。』
井戸の水で顔を洗って手拭いで拭きあげる。
少しだけ微笑んだ家康は、汲んだ水を桶に移すとの部屋に向かって歩き出した。