第14章 約束
『どういうことだ?』
『安土で待ってる人がいるでしょう?』
か?
『そう。』
『あやつが何かあったのか?』
『もうすぐ目覚めるから。』
『なんだと?』
『ただね、目覚めが一番厄介だから。うまく体と心が一緒に目覚めないと、辛くなるから。』
『だから、早く帰れと?』
『そう。』
『なぜわかる?』
『えっ?』
『なぜ、もうすぐ目覚める、と言い切れる?』
『…だって。』
『なんだ?』
目の前の幼女は、困った顔をした。
それがによく似ていて、不思議と嫌な気はしなかった。
『まだ、かかってるのか?』
幼女の側で男の声がした。
『兄様!』
兄様?
『ちゃんと伝えたか?』
『伝えたけど、…貴様は誰だ?とかなんで知ってるとか言って信じてくれないの。
やっぱり、私には無理なんだって! 兄様!』
『はぁ。』
よく見ると、男の瞳は紅く、幼女と同じ焦げ茶の髪をしていた。
『きっと、隠しても無駄だろうね。』
男は、幼女に話しかけるとこちらを向いた。
『…母上は、先程光の側まで送りました。もう少しで闇に溶ける寸前でしたけど。
迷わず、振り返らずに光の方に歩いて行きました。
もう心配はいらない。』
母上、だと?
『次は…、父上。あなたの番です。』
『父上、だと? 貴様は…』
『母上が現実に目覚める時に、心と体を一緒に引き寄せるためには父上の呼び掛けが必要です。
誰でもない、あなたの。』
『母上、大丈夫だったんだ!良かったぁ。』
『危なかったけどね。
早く安土に戻ってください。お願いします。』
『父上、母上を助けて。』
『貴様らは… 俺との子か?』
『…まぁ、そんな感じです。』
『まだちょっと会えるまでに時間がかかるけどね。』
『貴様らはどこから来た?』
『…俺は母上の中から。この子は、貴方の中から。』
安土に早く帰る約束ができたら、在るべき場所に帰り、来る日まで眠ります。』
『ほら、だから約束して?』
ふふっ、と笑ってしまうと、目の前の二人は驚いているようだった。
『わかった。明日には戻る。』
『出来れば、夜明けと共に出立の準備を。』
『わかった。』
あからさまに安心する二人に、俺は尋ねた。