• テキストサイズ

暁の契りと桃色の在り処 ー音ー

第2章 歌声と噂


「赤ちゃんを授かるって素晴らしいはずなんだけど、あまりの期待が重くて。
信長様の隣で頑張るって決めたのになぁ。

情けないね。」

そう言うと、は自室の襖から夕陽に染まり始めた空を見上げた。

『…確かに、御世継ぎがお産まれになる事は大変喜ばしいことです。』

咲は寂しげに空を見詰めるに向かって話始めた。

『ですが、身籠り産むまでかなりの体の負担や予期せぬ変化が起こります。
ただの期待だけでは、お辛いでしょう。

何事も、巡り合わせがございます。

焦らずとも、必ずや様にも巡り合わせが起こるはずです。

さぁ、何時ものように笑ってくださいませ。』

「お咲…。ありがと。」

つーっとの頬に涙が一滴流れた。

『湯浴でもなさいませ。』

「うん。」

ふぅ、とは一息つくと、燃えるような夕陽けを眺めた。





翌日、が目覚めるとすでに信長は政務の為に褥を出ていた。
ほんのりと信長の残り香を辿りながらも褥を出て身支度をする。

戦が始まれば離ればなれになる。
その寂しさに耐えながら、は今日も一日を過ごすのだ。

天守の階段を下ると、聞きなれない声が聞こえた。

(重臣の方かな? 戦が近いから軍議に呼ばれたのかな? ご挨拶しなきゃ。)

ゆっくりと降りると、声のする方に向かって歩き出した。
しかし、すぐには立ち止まってしまう。
またも聞きたくないあの言葉が、会話の中で聞こえたからだ。

『なぜ、御世継ぎが産まれない? なにかあるのではないか?』

『此度の戦が落ち着けば、側室の話も上がるやもしれん。』

『奥方には申し訳ないが、血は残さねばならん。』

の足は縫い付けられたように、そこから動けなくなっていた。
急に冷や汗が流れ、動悸がする。

(落ち着いて、だめ。また過呼吸になる…!)

キーーーン!!

突然、身体中に駆け巡るような金属音が聞こえた。
同時に激しい目眩が起こり、は座り込む。

(な、にこれ? 耳鳴り? 気持ち悪い。)

そこは、天守に向かう人気の少ない廊下。
は無理矢理に体を動かしながら、耳鳴りと目眩に耐え、天守に戻ると褥へ倒れ込んだ。


/ 101ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp