第2章 歌声と噂
『西への遠征の為に武器を新調するようだ。』
『あぁ。信長様自ら視察に行かれるとか。』
『家康様と政宗様も城守と奥方の護衛に呼ばれるそうだ。』
『次は、西への遠征になるだろうな。』
次第に城の中が、堺への視察や、近い将来に起こるだろう戦仕度に慌ただしくなり始めた。
広間での光秀の報告のあと、時を経たずににも詳細が知らされた。
※
「堺の視察は、どのくらい行かれるのですか?」
『三日か四日ほどであろう。早く終わらせて戻るつもりだ。』
『秀吉さんも光秀さんも行くのですか?」
『あ奴等は、織田軍の要だ。前線で命を懸ける為に使う武具なら共に見ておかねばな。城守を三成に任せるが、家康と政宗が到着後、三成も堺に向かわせる。
あやつもまた、織田軍の策士だからな。』
「そうなんですね。私は、…何を?」
『ふっ、貴様はなにも変わらず明るく城を保ち、二人を出迎えてやれ。』
「…はい。」
※
出立は七日後。
その前後に間に合うように、政宗と家康が安土城に到着する。
「ねぇ、咲。久しぶりに二人に会えるのに、戦のためって思うと、なんだか喜べないね。」
『乱世でございますからね…』
「祝言の頃は楽しくて幸せだったのにな。」
は寂しそうに笑いながら呟いた。
『様、先日届いた政宗様と家康様からの文にはなんと?』
「出立の知らせと、…政宗からは、私が気に入った青葉城下の漬け物と甘味をお土産にしてくれるって。家康からは、駿府で作られてる髪飾りを用意したって。」
『お二人とも、様に会うことを楽しみにされているようですね。』
「うん、嬉しいよね。」
と咲は視線を合わせ笑いあった。
「…ところで、お咲。」
『はい。何でしょう。』
「言わないし、聞かないんだね。」
『…。』
「…お世継ぎの事。」
『…。様。』
「戦の話が出る前から、事ある毎に登城される重臣さん達から言われたり、聞いたりしててね。
この間は…
一年も閨を共にしているのにって言ってるのを聞いちゃった。
信長様の子供だもん。
みんなの期待は仕方無いんたけど… 荷が重くて。
授からないことが怖くなってきちゃった。」
は、咲と視線を合わすことなく話終えるとため息をついた。